現役医学部生に聞く
2019.08.07
【東海大学/編入枠/熊野 翔 さん】
法律事務所の仕事を辞め、医学部に再受験
東海大学の医学部入試では、様々な入試枠を用意している。大学や短大の卒業者などを対象とした一般編入学試験を利用して、社会人から医学部に入学した熊野さんにお話を伺った。
ハワイで医学英語研修中の熊野さん
──まずは医師を目指した経緯から教えてください。
実は私、もともとは文系の人間です。高校卒業後の最初の進学先も、神戸大学経営学部でした。そこから京都大学のロースクールに進み、最近まで行政書士として法律事務所で働いていました。
ただ、私の父が精神科医ということもあり、幼いころから医療全般に対するあこがれを持っていました。そこで3年前の33歳のとき、本気で医師を目指すなら、年齢的にもそろそろラストチャンスかなという思いが強くなったんです。
すでに結婚していましたが、妻も「きちんと勉強して、国家試験にもストレートで合格してくれるなら応援するよ」と背中を押してくれて、仕事を辞めて医学部再受験に踏み切りました。
──東海大学を選んだ理由は何だったのでしょうか。
最初はどこかの国立大学に入れればいいなと思い、情報収集をしたうえで、目標を熊本大学に絞りました。というのも、熊本大学医学部は、年齢の高い受験生にも寛容だと評判だったからです。そこで妻と2人で熊本県に引っ越し、1年間、現地の予備校に通いました。でも残念ながら、その年の試験には落ちてしまいました。
では、次の一手はどうしようかと悩んでいたときに、妻や父、医師で弁護士の友人などから、「東海大学には一般編入学試験がある」「面接重視だから受けてみては」などとアドバイスをもらったんです。
自分でもホームページなどで確認したところ、東海大学は技術や知識で患者さんに尽くすのはもちろん、メンタル面でのサポートも重視しているんだなと強く感じました。
私は淡路島の出身で、将来は総合内科医として地域医療に貢献したいと考えており、こうした東海大学の理念には共感するところが大きく、受験を決意しました。
──文系からの医学部受験というと、ご苦労も多かったのでは?
正直きつかったですね。そもそも私は理系科目が苦手なんです。高校時代はバスケットボールに打ち込んでいて、特に数学は赤点ばかり。進学しないで就職しようかと考えた時期もあったくらいです。
医学部再受験を決めたときも、まずセンター試験の数学の問題を解いてみたら、200点満点で20点しか取れませんでした(笑)。学習内容を覚えていないうえに、私が現役のころより入試のレベルが格段に上がっているように感じ、心が折れそうになりました。
それでも医師をめざす以上、数学を克服するしかありません。とはいえ、がむしゃらに量をこなすやり方では、若い優秀な受験生には負けてしまいます。そこで過去問の傾向と自分の弱点をしっかり分析して、戦略的な勉強を心がけました。
幸い、冬ごろにはそれなりの点数が取れるようになりましたが、精神的にも本当にきつかったです。ただ、妻や両親、友人たちがものすごく応援してくれ「人間いつスイッチが入るかわからない」「医師に向いていると思うよ、がんばれよ」と。それが私自身の「絶対に医師になるんだ」という気持ちの支えになりました。
──実際の一般編入学試験の手応えはどうでしたか?
一般編入学試験は6月にあり、一次が適性試験と英語、二次が2回の面接でした。適性試験はロースクール入試でも経験していましたし、かなり手応えが良かったことを覚えています。
一方、英語は想像以上に難しく、以前TOEICで900点以上を取ったこともありますが、今回はとても厳しかったですね。「これは落ちたな。でもまだ一般入試もあるし、切り換えよう」と思っていたら、1次に合格していて驚きました。私が受けた年は、特に英語の難易度が高かったようです。
二次の面接の前には、医学部再受験専門の予備校にも通いました。面接のトレーニングでは医療問題などについて、その場で自分の考えを述べたりしましたが、ほかの受講生たちは医療知識の量がすごい。転身組の私は一般常識程度の知識しかなく、最初は「やばいぞ」と焦りました。
ただ、ほかの人たちは質問に答えるというよりも、自分の知識をばっと出してみせる、という傾向が強いように感じたんです。それなら自分なりに筋道を立てて質問に答え、思考力を示せば、他の方との差別化が図れるんじゃないか。加えて自分は前職が法律関係だし、事案について医療関係とは異なる視点からも論じられる。これは強みにできるなと考え、ある程度の自信を持って本番に臨みました。
あと、個人的には、年齢面で不利かなと思っていたのですが、開き直っていろいろと話の糸口を探りながらお話し、結果的に合格を頂くことができて、本当にうれしかったです。
──入学後の東海大学の印象を聞かせてください。
もう、東海大学には感謝しかありませんし、教育環境にも満足しています。キャンパスは付属病院の隣なので、日常的に医療従事者の方々の様子も見られますから、モチベーションが高まります。
もちろん、教育体制も充実していて、1年次から病院の業務に携わる個別体験学習があります。これは1週間ずつ、都合3週間、様々な部署に配属されますが、患者さんの気持ちなども実地でたくさん学ばせていただきました。患者さんから逆に励まされたりして、涙が止まらなくなったこともありました。
また、留学制度も整っていて、私は昨年、ロシアからの交換留学生の付き添いを務めました。その人はウラジオストクからの女子学生でしたが、その子は英語が苦手なようだったので、簡単なロシア語を調べてコミュニケーションをとり、最後は学年のみんなも呼んで、焼肉とカラオケを楽しみました。医師はチームで協働することも大切ですし、そういう部分を鍛える良い機会になったと思います。
それから、この3月には、ハワイでの医学英語研修にも参加しました。他大学からの参加者も交え、現地で集団生活を送りました。交友関係も広がっていい経験になりましたね。
同行してくれた先生方も、現在の学生たちのことだけでなく、はるか数百年先を見据えた教育論なども熱く語ってくださって。その熱意に応えたい、大学に対しても貢献したいという気持ちが湧いてきています。
──どんな医師を理想とされていますか?
先程も触れましたが、目標は総合内科医です。妻も賛成してくれていますし、医師の少ない土地へ行き、医療環境を整えたいと考えています。私は法律関係の仕事をしていたので、そうした面でも患者さんの力になったり、一緒に悩んだりできればいいですね。
そのために技術と知識を深めるのは当然として、地域の方々と交流して信頼してもらうことが大切です。学生の今、編入生も一般生も関係なく、みんなで楽しくコミュニケーションを取って高め合い、患者さんに安心してもらえる力を育んでいくことが大切だと思っています。