医学部 塾・予備校活用ガイド
2023.01.30
【医学部受験最前線】「医学部に強い予備校」 選択のポイントとは
医学部入試の倍率は、ここ数年、国公立大、私立大ともに、やや低下傾向にあり、5~10年前と比べると競争が緩和されています。とはいえ、保護者が受験生だった頃と比較するとかなり高倍率ですし、他系統よりも圧倒的に高い倍率の入試であることに変わりはありません。まだまだ熾烈を極めていると言っていいでしょう。
難関の医学部入試突破をめざして、限られた時間でライバルに勝てる学力を身につけるのは、容易なことではありません。相応の戦略が必要になります。そこで、医学部を志望する場合、既卒生はもちろんのこと、現役生の多くが予備校に通っています。医学部受験に高い合格実績を持つ予備校は、いずれも独自のノウハウと指導方法を持っており、それを有効活用し、揺るぎない学力を築くことが、医学部合格のために不可欠になるからです。
では、どのような予備校を選ぶのが有効になるのか、ここでは8つの視点から解説します。
医学部予備校は受験生の伴走者
【ポイント①】 医学部に強い予備校は少人数制授業もしくは個別指導が中心
予備校を選択する際に重要なのが、自分の学力や性格を踏まえて、自分に合った指導体制になっているかどうかを見極めることです。
一般的な予備校は大人数の集団授業が中心で、その分、学費は抑えられます。すでに高い学力を備え、自主的な学習態度が身についている生徒には、こうした予備校が向いています。授業で自分の弱点を見つけて、家庭学習の計画を立て、自力で弱点を克服していけるからです。けれども、現役生などは、まだそれだけの学力と学習態度が備わっていないケースも多いでしょう。
それに対して医系予備校など、医学部に強い予備校では、集団授業でも1クラス10人以下の少人数体制が主流です。学費は高めになりますが、講師と生徒の距離が近いメリットは大きなものがあります。講師が生徒一人ひとりの学力の現状、性格、苦手分野などを、しっかり把握しているため、授業中でもきめ細かくフォローしてくれるからです。分からないことがあったら、すぐに質問できる雰囲気も作られています。
学費は最も高くなりますが、マンツーマンの個別指導を実施する医系予備校もあります。医学部入試では、ひとつでも不得意科目があると、合格は困難になります。どうしても自力では克服できない不得意科目・分野を抱えている場合は、個別指導が有効です。
ただし、長い受験勉強を乗り切るには、ライバルと切磋琢磨して、やる気を高めることも必要で、その意味では少人数制集団授業も有意義と言えます。そのため近年は、少人数制集団授業と個別指導を組み合わせた学びを可能にしている医系予備校も増えています。
このように、予備校によって指導形式に違いはあるものの、どの形式が優れていると、一概に言えるものではありません。それぞれの特徴を理解して、自分のタイプに合った学び方を選択することが大切です。自分がどの学びのスタイルに向いているのか、判断できないときは、体験授業や説明会などに積極的に参加して、見極めるようにしましょう。
【ポイント②】 志望校の出題傾向に特化した指導が展開される
医学部入試では、大学ごとの出題傾向が大幅に異なります。そのため、一定の基礎学力を固めた上での話ではありますが、できるだけ早い段階で志望校を決めて、出題傾向に即した勉強を進めることが肝要です。
予備校では一人ひとりの得意・不得意分野を熟知しており、その生徒が高得点を取りやすい大学、つまり入試問題との相性のいい大学が、志望校の候補として紹介されます。志望校が決まったら、次いで出題傾向の近い大学が紹介されます。そこを併願校にすれば、効率よく勉強を進めることができ、合格可能性が高まるわけです。
さらに、現役生は学校推薦型の受験も視野に入れるケースがあると思われます。予備校では、各医学部の学校推薦型選抜が、どのような形態で行われているのか、綿密な情報収集に努めています。それを踏まえて、面接対策や小論文の添削指導などにも力を入れています。説明会などで、学校推薦型への対応の充実度を質問すれば、その予備校の情報収集力と指導体制のきめ細かさを見極める材料のひとつになるでしょう。
【ポイント③】 医学部受験に精通したプロ講師のパワー
志望校の出題傾向に沿った勉強を進める際に、心しておくべきことがあります。それは、志望校で頻出する分野については「ほぼ解ける」では不十分で、「確実に解ける」レベルに仕上げるということです。医学部に合格するには、それだけの高得点が要求されるからです。ですから、過去問だけでなく、類似の問題で膨大な問題演習を積むことが大切になります。
そこで、予備校選びで重要なポイントになるのが、講師の質です。医学部受験に精通したプロ講師が揃っている予備校なら、難易度の高い問題も分かりやすく解説してもらえますし、志望校の入試問題の類似問題も豊富に作問して提供してくれます。問題演習量を増やすことができるわけです。
また、医学部の入試問題は、大学ごとに異なるとともに、それぞれの大学の出題傾向が年度によって変化することもあります。多くの予備校では、ベテランのプロ講師を中心として、「入試問題分析チーム」を編成。大学ごとに担当講師を決めて、入試問題の分量、難易度、頻出分野、解答方法などを詳細に分析しています。それによって、先述したように、類似問題も豊富に提供できますし、失点しない答案作りのアドバイスも可能になっているのです。
【ポイント④】 完全定着を図るために夜間指導は「半強制」で実施
医系予備校では、夜間も半強制的に残して、自習させるケースが主流です。
現役生も、授業が終わった後、ほとんどの生徒が残って勉強しています。高校の学びと両立させながら、医学部受験用の勉強時間を確保するのはなかなか難しいことですが、夜間の自習の存在が、いわゆるペースメーカーの役割も果たしているのです。
夜間の自習では、授業で与えられた課題に取り組み、分からないところが出てきたら、すぐに講師に質問して、その日のうちに解決できるようにしています。さらに1週間ごとに、授業で学んだ内容のテストが課され、すべての問題が自力で解けるようになるまで、解き直しをします。こうして完全定着が図られる効果は絶大です。
自習のための環境も整えられています。多くの場合、自習室は土日も含めて、朝8時頃から夜10時頃まで開放されています。ほとんどが一人ひとり専用のブースで、集中して勉強に取り組めます。
【ポイント⑤】 現役医学生チューターに気軽に質問ができる
医学部に強い予備校の特色のひとつが、現役医学生チューターが在籍しているところが多いことです。ほとんどが、その予備校の出身者です。チューターの主な役割は、自分の体験を踏まえて、勉強方法や、日々の過ごし方などをアドバイスすることです。同じ予備校に通った先輩の助言だけに、説得力があり、参考になります。
現役生も高校のキャリア教育プログラムなどで、医学生の話を聞く機会はあるでしょうが、日常的に接することで、より大きな刺激が得られることは確実です。
チューターが待機するスペースを設けて、生徒からの質問に対応している予備校もあります。講師には「こんな基本的なことを質問するのは恥ずかしい」と躊躇するようなことでも、年齢が近いチューターならば、気軽に質問しやすいはずです。
チューターが、いま通っている医学部のカリキュラムやキャンパスライフを話してくれることも少なくありません。それが「医学部に行きたい」というモチベーションの強化にもつながっています。
【ポイント⑥】専用寮があり勉強に専念できる
医学部に強い予備校では、遠方に自宅がある生徒のために、専用寮を設けているところもあります。自宅から通学可能であっても、「通学時間がもったいない」「夜遅くまで予備校で勉強しているので、帰り道の治安を考えると、寮のほうが安心」などの理由で、入寮する生徒もいます。専用寮に入れば、規則正しい生活を送れ、勉強に専念できるというメリットもあります。
管理栄養士が献立を作り、食堂で決められた時間帯に温かい食事を提供するなど、栄養面のサポートに力を入れている予備校もあります。食堂は寮生だけでなく、通学生も利用できるようにしているところもあります。現役生は夕方や夜間に授業を受けますし、既卒の通学生も夜間指導が半強制になっていますから、それらの生徒の夕食がおろそかになってはいけないからです。皆で和気あいあいと、食事を楽しむ時間は、良い気分転換の場にもなっています。
【ポイント⑦】 同じ医学部をめざす仲間の存在が刺激になる
医学部合格者の体験談でよく聞かれるのが「仲間の存在が大きかった。周囲の頑張っている姿が刺激になり、自分も最後まで粘り強く勉強しようと思えた」という声です。同じ難関の医学部をめざす仲間たちは、ライバルであると同時に同志であり、受験勉強の大きな支えになる存在でもあるのです。
とくに現役生の場合は、在籍している高校に医学部志望者があまり多くないケースもあるでしょう。既卒生でも一般的な予備校に通っていれば、同様の状況がありえます。そうすると「無理して医学部をめざす必要もないかも……」と、勉強に熱が入らなくなることもあるかもしれません。その点、医系予備校は、当然、皆が医学部をめざして、それぞれに悩みながらも、必死になって努力しています。「苦しんでいるのは、自分だけではない」と感じられれば、気持ちが楽になり、もっと頑張ろうという意欲もわいてきます。
【ポイント⑧】 担任講師を中心としたサポート体制が充実
医学部に強い予備校の特色である「一人ひとりへのきめ細かなサポート」の中心的な役割を担うのが担任講師です。生徒や保護者と定期的に面談し、勉強の進捗状況を確認し、その後の学習方針について、アドバイスするのが担任講師の役割です。そのほか、生徒の日頃の様子を観察し、悩みや焦り、ストレスなどの兆候があるような場合は、声をかけて、随時、相談に応じています。
とりわけ現役生は、高校生活との両立が課題になることがあります。そんなときは、自分ひとりで悩んでいないで、担任講師に相談することをお勧めします。親身になって、何らかの解決方法を示してくれるはずです。
もちろん、担任講師が生徒のすべてを把握するのは困難です。そこで、多くの予備校では、その生徒が受講している各科目の講師陣、職員を合わせたチームによるサポート体制を構築しています。チームは月に数回集まって、生徒一人ひとりを今後、どう指導していくか、話し合いを行います。講師室で日常的に、何らかの問題を抱えている生徒の話題になり、皆で解決策を議論することも少なくありません。
そして実は、このチームによるサポート体制こそが、医学部受験に強みを発揮する大きな要因でもあるのです。医学部に強い予備校の講師たちは、その生徒の現状を把握して、医学部に合格するために必要とあらば、自分が担当する教科の課題を減らして、一定期間、他の特定の教科の勉強に集中させるなど、臨機応変な対応を心がけています。チームで一体となって、一人ひとりの生徒を見守っていることが、高い医学部合格実績につながっているわけです。
※本記事は『日経ビジネス/日経トップリーダー 特別版 WINTER.2023〈メディカルストーリー 入試特別号〉(日経BP社)』に掲載されたものです。