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2024.07.04

【特別教育対談】2024 医師をめざす子どもたちへ
医師をめざすからこそ
伸び伸びと過ごし、幅広く学んでほしい

全国屈指の進学校として知られ、毎年70名程度が医学部医学科に進学するという開成中学校・高等学校。医学部合格をめざすコースやカリキュラムを設ける学校が少なくないなか、同校はそれに特化した教育は行っていない。重視するのは、自主・自律が支える自由のなかで、みずから進路を見いだし実現していく姿勢だ。中高時代に必要なのはどのような教育なのか。校長の野水勉先生と、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏に語り合っていただいた。

開成中学校・高等学校 校長
野水 勉 氏

SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表
髙宮 敏郎 氏

毎年約70名が医学部へ 特化した教育は行わず

髙宮 貴校では毎年多くの生徒が医学部医学科に合格し、今春も約70名が進学しています。開成ご出身の野水先生が在学中から医学部志向は強かったのでしょうか。

 

野水 私が在学していた50年前は、1学年350人のうち60人ほどが医学・歯学系に進学していました。現在は1学年400人 で70人前後が医学部に進学するので、割合は変わっていないですね。

 

髙宮 中学に入学した段階で医学部を志望している生徒もいると思いますが、医学部に特化した授業は行っているのですか。

 

野水 本校では医学部に的を絞った授業は行っておりません。医学部に限らず、学校が進路を細かく指導することはありません。生徒本人が自分で考えて判断することですから。

 

髙宮 最初から医学部志望という生徒以外は、いつごろから意識するケースが多いのですか。

 

野水 さまざまですが、いちばん多いのは職業のイメージを持ち始める中学3年生以降でしょうか。困った人を助けたいとか、親や親戚など医療関係者から話を聞いて決めたという生徒が割合としては多いと思います。

 

髙宮 保護者が医療関係者で医学部を勧めるケースは多いかもしれませんね。

 

野水 はい。その反面、親からのそういったプレッシャーに悩む生徒もいます。

 

髙宮 保護者の意向が強くても、違うことをやりたいと考える子がいるのは当然だと思います。

 

野水 後を継いでもらわないと困るといったお話をされる保護者もいますが、そこは本人の人生ですから、じっくり考えてコミュニケーションを取ってほしいと伝えています。

 

髙宮 本人より保護者の思いが強い場合、生徒本人があまり追い込まれないように配慮されているのですね。

 

野水 そうですね。一度は別の学部に進んだものの、やっぱり医学部に行きたいという卒業生もいますし、その逆もあります。医学部に進学し医師免許を取ったものの医師にならず別の職業を選ぶ人もいます。いろいろな形がありますし、それでいいと考えています。

 

髙宮 学校として医学部進学を推奨しているわけではなく、また、進路を選択するうえでも医学部に限らず、本人の意志を尊重するということがよくわかります。

 

野水 中高一貫校のメリットで、生徒たちは毎日伸び伸びと学校生活を送っています。大学進学のための勉強だけではなく、まずはこの6年間をしっかり楽しむ素地を固めてもらっています。

自主・自律が支える自由 重視するのは生徒の主体性

髙宮 伸び伸びと自由を楽しむ開成を象徴する行事といえば「運動会」です。今年も大いに盛り上がったようですね。

 

野水 運動会に限らず、本校は勉学だけでなく、ほかの学校行事や委員会活動なども非常に活発です。教育理念のなかに「自主・自律」を掲げ、生徒たちが自主的、主体的に取り組むのが特徴です。

 

髙宮 先日取材である大学の学長先生にお会いしたときに、出身校である開成の運動会の思い出話をお聞きしました。医学部の学部長を経験されて学長にまでなられた方が、運動会の棒倒しのエピソードをうれしそうにお話されるのは非常に印象的でした。

 

野水 宿泊を伴う学年旅行も、中2以降は生徒による委員会が主体となって運営します。みずから企画して実行に移すので小さな失敗もありますが、教員は「失敗してもいい」という寛大な気持ちで見守っています。

 

髙宮 生徒たちはやりがいがあるでしょうし、安心していろいろなことにチャレンジできますね。そのなかで主体性やリーダーシップが育っていくのだと思います。実際に多くの卒業生がさまざまな分野で活躍されていますが、社会全体の多様化が進むなかで、進路の選択方法にも変化があるのはないでしょうか。

 

野水 生徒たちの進路の選び方に大きな変化はありません。進路選択といってもまずは大学の選択ということになりますから。

 

髙宮 医学部に進学する生徒の割合は変わっていないとのことですが、理系・文系の割合はどうなっていますか。

 

野水 私が高校生だったころは理系・文系が6対4ぐらいでしたが、今は7対3ぐらいです。理系の割合が少し増えています。

“何となく”ではなく 覚悟ある選択かを問う

文化祭準備委員会の集合写真

髙宮 進路選択は生徒主体ということですが、医学部志望の生徒に対する指導で心がけていることはありますか。

 

野水 細かい指導は行っていませんが、高2・高3のクラス担任の面談の際には「医学部はかなりの覚悟を持って行かないといけない」ということは呼びかけています。ほかの学部であれば、たとえば文学部にしても理学部にしても、直接特定の職業に結びつくわけではありませんが、医学部は高い確率で医師になることになります。学部時代の勉強の仕方も他学部とは大きな差があります。職業に対する覚悟を強調するということは意識しています。

 

髙宮 成績の良い生徒が何となく医学部に決めてしまうのはよくないですね。ミスマッチが起きないよう、命にかかわる仕事ということや、覚悟があるのかといったところを確認するのは大事です。そこは大学の医学部の先生方も気にされているようです。

 

野水 特にマニュアルがあるわけではありませんが、たとえば医学部での解剖実習も含めて、本当に覚悟があるのかという呼びかけを繰り返しておいたほうが医学部進学後もうまくいくのではないかと卒業生の医師からも言われます。

 

髙宮 学校の授業のなかで生き物の解剖をする機会はあるのですか。

 

野水 中1の2時間連続の授業で行うことが多く、イカとハマグリを解剖して比較したり,カイコガの幼虫解剖もやっています。ニワトリの全身解剖のように生徒にとってはインパクトのある内容になるものもあります。

 

髙宮 私も中学のときはカエルの解剖をしましたが、カエルが飛び回って教室中が大騒ぎになるような状況でした。

 

野水 今はカエルの数が減ってしまい中学高校では解剖ができませんが、それでも生徒にとっては衝撃的というか、非常に印象に残る授業になっているようです。

 

髙宮 こうした授業でも適性を見ることができそうですね。

 

野水 高大連携という形で千葉大、東京医科歯科大、順天堂大の各校の医学部には、説明会を開催していただいています。最近は希望者が20人ぐらい大学を訪ねて参加しています。

 

髙宮 実際に大学に行って説明会に参加されるのですね。

 

野水 そうです。医学部の先生や学生から話を聞いたり、体験をさせてもらったりしています。年齢の近い先輩も来てくれるので、直接相談する場面もあります。

将来を考えるきっかけに 職業観を学ぶキャリア教育

仕事について、先輩(医師・弁護士・研究者)と代表生徒が座談。こんな会も、生徒が企画

髙宮 キャリア教育の一つに、卒業生からお話を聞く機会があるそうですね。

 

野水 中3から高1を中心に、卒業生やそれ以外にもいろいろな分野の専門家に来てもらって講演会を行っています。多様な人をお招きすることで、生徒に自分の将来や進路を考えさせており、医学の道に進んだ卒業生が登壇することもあります。総合診療医や、新型コロナが流行していたときには感染症の専門家の経験談、苦労話などを聞く機会もありました。コロナ禍では医師の大変さが盛んに報道されたので、医学部を志望する生徒が減るのではないかと心配しましたが、それはなかったですね。

 

髙宮 医学部の先生方も同じ心配をされたようですが、影響はなかったと聞きました。医師がいかに重要な職業なのかをあらためて実感する機会になったのかもしれません。第一線で活躍する卒業生のお話は中学生や高校生の心に伝わりやすいように思います。

 

野水 卒業生の講演会を聞けば、みんながそちらへ進むというわけではないですが、一つのきっかけにはなるでしょう。それでも、生徒それぞれが自分の進路を自分で選んで自分で納得するということが大事です。実際に本校卒業生の大学卒業後の進路は本当にさまざまです。ただ、みんなとても仲が良いので、卒業後も密に連絡を取り合っています。そういったところでもお互いに刺激を受けている印象は強いです。

卒業生の強いつながり 医師になった後も続く

髙宮 卒業生とのつながりの強さはいろいろな場面で発揮されています。運動会や夏の水泳学校にも卒業生の医師が来てくれているとお聞きしました。

 

野水 そうですね。運動会の練習時期である4-5月は、卒業生の整形外科のネットワークが構築されており、休診日の多い木曜日や土曜日に対応できる病院リストも作成されています。また、行事のときだけでなく、何かあったときなどにも快く対応していただいています。

 

髙宮 卒業生同士のネットワークも強く、いろいろな業種や地域ごとに「○○開成会」があります。医療の業界にもそういった集まりがあるのでしょうか。

 

野水 医療の分野では、医療全分野をまたがる医学開成会が設立されています。そのなかでさらに整形外科開成会、産婦人科開成会、小児科開成会、放射線科開成会、精神科開成会など、診療科ごとにつくられています。大学の医学部にもそれぞれの開成会があるはずです。

 

髙宮 全体の医学開成会はもちろん、診療科別や大学別にまで組織があれば、医師になっても何でも相談できそうですね。困ったときに頼れる人がいるのは大きなメリットだと思います。

 

野水 私の身近にも開成を卒業した整形外科医がいますが、こうしたネットワークには非常に助けられていると聞きます。

 

髙宮 医学部に入るための勉強はもちろん重要ですが、大学に進学した後や、その先も卒業生のネットワークを生かしながらキャリアが積めるのですね。開成出身同士であれば、先輩医師や医学生も後輩の面倒を手厚く見てくれそうです。

 

野水 卒業生のネットワークは本当にありがたいです。

大学受験は団体戦 協力の文化を守りたい

髙宮 次に医学部入試について伺います。学校として面接対策や小論指導などは行っているのでしょうか、

 

野水 画一的にはやっていません。面接の練習をさせてほしいと申し出た生徒がいればそれぞれ個別に対応するという感じでしょうか。学習面でも各教科の教員が生徒の要望に個別に応えています。

 

髙宮 国公立大学でも広がる学校推薦型の入試を受験する生徒は増えていますか。

 

野水 数は多くありませんが、推薦入試を受ける生徒はいます。ただ、推薦できる人数に枠があるため、生徒同士が普段の生活のなかで競う状況になりはしないかと、校内で選抜することに対しては懸念もあります。そのため、以前は校内選抜を行っていませんでした。現在は医学部を含めて推薦入試の割合が増えてきたため対応していますが、希望者が周りをなぎ倒して推薦の権利を勝ち取っていくというようなことはまったくありません。本当に行きたいという生徒のみ手を挙げてもらうようにしており、決められた人数を上回ることはむしろ少ないです。

 

髙宮 東大でも推薦入試が導入されていますし、今後推薦型の入試はますます増えていくと思われます。推薦入試に対しては先生方が何かサポートされているのでしょうか。

 

野水 推薦入試対策では、生徒のプレゼンテーションを聞いてコメントをするようなことはしていますが、そのために何度も練習させるようなことは基本的にはやっていません。

 

髙宮 高校時代の成績のほか、面接、小論文で選抜する総合型選抜の入試も広がっています。こうした大学入試で本当にいいのか、国公立大学であれば5教科7科目の学びを試験ではかることが大事なのではないかという思いもあります。人数の枠を定めた推薦入試では、学校内で生徒を選抜しなくてはなりません。大学がどういう学生がほしいのか、明確な基準もないなかで選んで推薦するのは、学校としても負担なのではないですか。

 

野水 学校の負担よりも、生徒同士が学校生活のなかで互いに応援し合う雰囲気を保てるかどうかを大切にしたいと考えています。受験は個人戦なので競争であることには違いありませんが、学校のなかでは極めて団体戦に近い雰囲気があります。学校としては、生徒がお互いに「がんばれ」と応援できる雰囲気を大事にしたいのです。

医学部は多様な進路の一つ まずは幅広い知識の習得を

髙宮 自分が行きたいところに行ければそれでいいということではなくて、周りの仲間もがんばって、それぞれに志望がかなうといいという雰囲気があるのですね。

 

野水 そうです。もともと本校が大事にしてきたそういった空気が推薦入試の広がりで崩れなければいいと思っています。今のところはまだ大きな問題はありません。推薦入試では学校で推薦したからといって必ず合格するわけではありませんし、大学によって選抜方法もさまざまです。生徒を選抜するにしても、大学側が期待するものを鋭く反映させるのはそう簡単ではないと感じます。

 

髙宮 他校でお聞きした例では、医学部の推薦入試の際、どうしてもどちらかの生徒を選ばなくてはならず、推薦をもらえなかった生徒が学校を辞めたというケースがあったそうです。高校の先生が生徒を選び出す作業は確かに難しいと思います。

 

野水 成績だけでなく、小論文があったり、活動内容の評価があったり、選抜の基準がさまざまですから。本校も推薦入試の場合は、その生徒に直接かかわっていない教員がコントロールするようにしています。

 

髙宮 一方で、海外大学への進学状況はいかがでしょうか。貴校も毎年一定数は進学されていますが、メディカルスクールはまだ少数ですか。

 

野水 アメリカの大学制度は学部の4年を終えて医学系大学院に進んで、さらに4年がかかりますから、今のところ医学部に進学したケースは聞いてはいません。医学部を目指して海外に渡った例では、ハンガリーの医学部とイギリスの医学部に行った生徒がいます。イギリスの大学は前提条件が厳しいのですが、その生徒は予備コースが要求されないことなども調べて受験していました。条件をクリアしていなければ、門前払いになるので情報収集も重要です。海外進学者は少しずつ増えていますが、医学部をめざす生徒はまだまだ少数です。

 

髙宮 最後に、医学部をめざす受験生と保護者にメッセージをいただけますか。

 

野水 まずは中高6年間の学校生活を伸び伸びと過ごして、自分が本当にやりたいことを見つけてほしいです。また、医学部に進んで医師になるのであれば、総合知識をしっかり持っていることが大事です。倫理観を持つ必要もありますし、いろいろなことに目が行き届く姿勢も求められます。そのためには広く勉強することがやはり大事です。そうやって勉強するなかで、自分の進路は医学部だと自分で選んでいくのが理想です。

 

髙宮 開成の卒業生が医師はもちろん、起業家や官僚、アーティストなど幅広い分野で活躍されているのは、自主・自律の校風や伸び伸びと学べる環境、幅広い職業観をつくるキャリア教育が土台になっていることがよくわかりました。医師をめざす子どもたちにも、ぜひ中高6年間で幅広い知識と体験を積み重ねてほしいと思います。本日はありがとうございました。

※本記事は『日経ビジネス 特別版 SUMMER.2024〈メディカルストーリー 教育特別号〉(日経BP社)』に掲載されたものです。

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