医学部 塾・予備校活用ガイド
2025.01.16
医学部入試の特徴から勉強法、志望校選びまで…医学部突破をめざすための基礎知識(後編)
医学部受験には他学部とは異なるノウハウが必要とされる。医師に求められる素質や、学力養成のステップ、先手必勝の情報収集まで、医学部合格をめざすために身につけておきたい「基礎知識」について、代々木ゼミナール教育情報センター教育情報室の室長を務める木戸葵さんが解説する。【後編】
代々木ゼミナール
教育情報センター 教育情報室
室長 木戸 葵 さん
学校の授業に注力し 早い段階からの基礎固めを
医学部受験は依然として過熱傾向が続き、ここ数年の志願倍率は、国公立大学で4倍程度、私立大学の一般選抜では30倍台前半で推移しています。私立大学の中には、保護者世代が受験生だった頃に比べて、入試倍率・難易度ともに大幅にアップしている大学も見受けられます。
医学部人気の要因の一つには、受験生やその保護者の「安定志向」があるようです。安定した生活が想定しやすい職業として、「医師」の人気は不動といえそうです。
加えて、地方在住の受験生、とりわけトップ層の生徒が、東京大学や京都大学といった難関大学ではなく、地元の国公立大学の医学部を志望する傾向が強くなっていることも要因とされています。
時代とともに状況は多少変われども、医学部受験が非常にハイレベルな入試であることに変わりはありません。医学部を目指すのであれば、早い段階から基礎学力を養っておくことは鉄則です。
医学部志望者の多くは、私立・国公立の区別なくトップ進学校の成績上位層です。英語・数学・国語の主要3教科は「抜きん出ていて当たり前」の成績が求められます。いずれも成績が上がるまでには時間がかかる教科なので、共通テストレベルの学習範囲は、早めに確実に固めておくことが得策です。
現役生であれば、まずは学校の授業で学力のベースをつくることを第一に心がけましょう。特に高1から高2では、医学部受験を意識した特別な勉強に着手するよりも、基礎固めを確実に、学校の授業をきちんと受けましょう。応用問題や入試問題に取り組むのはその後です。高3になって「忘れてしまったから、やり直さないと」とならないよう、日々の授業にも真摯に取り組みましょう。
学習時間を確保する時間管理術を身につけておくのもこの時期です。医師に不可欠な人間力を養うためには、部活や課外活動など勉強以外の体験も必要です。医学部受験は長期戦となります。高1のうちはぜひとも勉強以外のことにも挑戦してください。学年が上がるごとに勉強量が増えることを想定しておけば、学習スケジュールを組み立てる練習にもなります。
学習習慣は、日々の積み重ねで身につきます。勉強は机に向かわなければできないものではありません。通学時間や学校の休み時間、放課後、寝る前のひと時など、スキマ時間の活用も、積み重ねれば確実に力はつきます。「頭のいい人」の多くは、勉強に充てられる時間を上手く確保し、その時間に何を勉強すると良いのかを考えているものです。できるだけ早い段階で、勉強のリズムをつくっておくことが、過酷な受験勉強を乗り切るための秘訣となります。
プラスアルファの学習のために、塾や予備校などを利用する際には、学習進度にも注意が必要です。学校と塾・予備校の学習内容にずれがあると、混乱を招く恐れがあります。背伸びをせず、学校の学習進度に合った講座を選んだり、映像講座を受講したりと、自分なりに調整することが大切です。
一方、面接や小論文の対策は、学校の授業や自学自習だけでは立ち行きません。医学部進学実績の高い学校の中には、手厚いサポートを行うところもありますが、そうでない場合は、医学部受験に特化した塾や予備校を頼るほうがよいでしょう。その多くは、単科の受講でも、進路指導をしてくれるようです。志望校選択や受験スケジュールの組み立てなど、プロのアドバイスは「鬼に金棒」。合格を確実にするための手段として考えておきましょう。
2科目必須の理科はどう学ぶべきか
さらに医学部受験では、「理科」を重視する傾向が顕著です。国公立大学の二次試験や、私立大学の一般選抜では、理科の物理・化学・生物のうち、2科目を必須としている大学が大半です。とりわけ私立大学では、理科2科目の各配点を、英語・数学と同等にするなど、理科のウエートを高くする大学も目立ちます。苦手な分野もあると思いますが、大学によっては必須科目を決めていることもあります。地学で受験できる大学は東京大学や金沢大学など一部の大学しかありません。一方、必須科目に指定されている場合があるのは物理と化学で、自ずとこの組み合わせを選ぶ受験生は多いです。
医学とは直結しないイメージの物理ですが、段階を踏んで問題を解決する論理的思考力は、医療現場では不可欠。大学側としては入試でその能力を測りたいのかもしれません。実は受験生にも物理は人気の科目です。他の科目と比較して、一定の知識を身につけると「点数を取りやすい」と位置付けられているためだと思われます。
対照的なのは、暗記量が多い科目の代表の生物です。広く自然現象に興味関心を持つとともに、こつこつと努力することが求められます。時間はかかりますが、暗記科目は一度覚えてしまえば、安定した点数につながることが強みであり、物理にありがちな「一つのケアレスミスが、以降の問題の失点になる」というようなリスクが少ない点もメリットです。化学と連動する範囲も多く、しっかりと知識を積んでおけば、理科2科目を得点源にすることも可能です。何より、医学部での学びに直結する科目なので、実力をつけておいて損はないでしょう。
科目ごとの特徴は顕著ですが、ほとんどの大学では選択する科目によって有利・不利が生じることはありません。自分の得手不得手・興味を考えながら、勝負しやすい科目を選べば道は開けます。
国立を狙うか、私立に絞るか 受験対策は大きく異なる
国公立大学と私立大学では、受験に必要な科目数が異なります。
国公立大学では、一部の入試方式を除き、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の受験が前提で、共通テストで必要な科目にプラスして二次試験の対策が必要となります。科目数が多い半面、倍率は低めに出る傾向がありますが、国公立大学の受験では、第1段階選抜が実施されることがあるため共通テストの点数は非常に重要です。必須科目や点数の換算方法は大学によって大きく異なるため、事前の確認は不可欠です。自己採点の結果次第では、二次試験の出願先を変更することも踏まえて、志望校の選択肢を広げておきましょう。また、一部の私立大学では、共通テストの点数で学力判定を行う「共通テスト利用選抜」を実施している大学もあるので、“進学先の確保”に検討するのも一手です。
共通テストは、2020年度まで実施されていた「大学入試センター試験」に比べると、問題の文章量が多くなり、読解力や情報の分析・取捨選択力、思考力が求められる問題が増えています。さらに、2025年度入試からは新しい学習指導要領に基づき、「6教科・30科目」から「7教科・21科目」へと変更になりました。新しい教科として「情報」が加わり、受験生には負担が増えることになります。新教科の「情報」はもちろん、「地理歴史」「公民」「数学」など、科目に変更点がある教科の出題傾向は、当面つかみにくくなることが想定されますが、変更点を過剰に意識するよりは、学習の基礎固めを念頭に置いて、勉強に励むことが大切です。
続く二次試験の科目は、英語・数学・理科2科目の4科目型が定番ですが、3科目型や5科目型で行う大学もあります。近年では、二次試験の成績を重視する傾向も目立つため、試験科目や配点比率などに変更がないか、注意を怠らないようにしましょう。
一方、私立大学の受験では、共通テストを利用しない一般選抜のみの挑戦であれば、入試科目数は少なくて済みます。その分、志願者数は多く、倍率は極めて高くなります。
国公立大学の後期日程入試(2025年度入試は50大学中で16大学が実施)と、私立大学の共通テスト利用選抜(2025年度入試では16大学が実施)は、例年、高倍率・高難度になる傾向があります。特に国公立大学の後期日程入試はあくまでも最後の手段ととらえて、「前期日程で決める」という意識で臨みましょう。
近年では医学部でも、「総合型選抜」「学校推薦型選抜」といった一般選抜とは別枠を設ける大学が増えています。国公立大学でもすでに「総合型選抜」は15大学、「学校推薦型選抜」は44大学に設置されています。非常に高いレベルの学業成績が必要なうえ、一般選抜で合格するに匹敵する学力が求められるほか、学業以外での活動なども重視されるため、決して「楽な入試」ではありません。しかし、チャンスが増えるという点では、視野に入れる価値は大いにあります。
いずれにしても、志望する大学によって、勉強すべき内容や範囲は大きく変わります。自分はどんな環境で学びたいかを念頭に、早い段階で受験パターンを決定しておくことが、合否を分ける重要なポイントといえるでしょう。
偏差値はあくまでも目安 現役生の実力は秋以降に伸びる
志望校選びの際は、「偏差値」に着目しがちですが、偏差値のみで志望校を選ぶことはお勧めしません。偏差値とはあくまで、模試などの結果に基づき、各大学の難易度を数値化したものに過ぎません。その年の受験生のレベルや、応募者数の変動により、実際の難易度が大きく変わる可能性もあります。自分の現時点での学力の立ち位置の確認にはなりますが、あくまでも一つの目安程度にとらえておけばいいでしょう。
特に現役生の場合、高校3年次の模試成績では、偏差値が低くなる傾向が顕著です。なぜなら、現役生のみが受験する高校1・2年次の模試とは異なり、既卒生も参加するためです。夏までの模試では、教科によっては、高校での履修範囲に合わせて出題範囲も絞られるため、経験値の高い既卒生は点が取りやすく、いきなり成績が下がった現役生は自信を無くしがちです。ここでは場慣れと力試しの場ととらえ、弱点や苦手を知り、その克服に努めておけば、秋以降の模試では成果が一気に出るはずです。
6年間の学費の相場は? 志の高い学生には学費が免除される方法も
志望校選びの際に外せないポイントとしては「学費」もあります。国公立大学の6年間の学費は、標準額で約350万円。私立大学は幅が広く、6年間の総額で、少ない大学は2000万円弱、多い大学になると4000万円代半ばになります。国公立大学に合格すれば、他学部と同程度の学費となりますが、自宅からは通えない地域の大学になる率も高く、下宿代などの生活費が加算されることもあります。国公立大学だけに絞るのか、私立大学であればどの程度までは許容範囲か、マネープランを家族で共有することが大切です。
一定の条件を満たすことで、授業料がかからない大学や、学費の負担が軽減される大学もあります。前述の自治医科大学では、6年間にかかる学費が貸与され、卒業後に9年間、指定された医療機関等に勤務した場合は、返還が免除されます。他にも、防衛省管轄の防衛医科大学校は、入学と同時に防衛省の職員となるため学費はかからず、毎月、学生手当が支給されますが、卒業後は、医療資格を持つ自衛官として勤務する義務が生じます。福岡県北九州市にある産業医科大学は「産業医(事業所で働く人の健康を維持・増進する業務に携わる医師)」を養成する目的で設置された私立大学です。産業医として決められた年数勤務することで、貸与された学費の返納義務が免除されます。
医師の働き方は多様であり、「なりたい医師」像を実現するためには、進路の選択肢も異なります。医学部受験には高いハードルが複数ありますが、「医師になる」という決意があれば道はいくらでも開けます。長期的な視点で人生を考えながら、ポジティブに挑戦してください。