医師である父の強い勧めで、川崎医科大学附属高校に入学した頃は、「医師になりたい」という強い思いはありませんでした。それでも3年間頑張って、医学部に合格できたのは、アットホームで居心地の良い環境だったからだと思っています。
先生方は生徒のちょっとした変化を見逃さず、声をかけてくれます。成績が伸び悩んでいたときは、放課後、マンツーマンで教えてくださることもありました。どの生徒も絶対に見捨てられることはなく、できるようになるまで面倒を見てくれます。私のために、熱く指導してくださる姿に感激し、何とか応えたいと、頑張って勉強しようという気持ちが生まれました。
仲間にも恵まれました。「皆で協力して、一緒に医学部に行こう」といった雰囲気があり、自習スペースで、得意な科目・分野を教え合ったことも、なつかしい思い出です。もちろん、すべての生徒と相性が良いわけではありません。けれども、全寮制で、長い時間を一緒に過ごすのですから、うまく付き合うことが大切になります。
お互いの性格、個性を尊重して、距離感を図ることが得意になった気がします。いま振り返ると、それは医師になる上でも貴重な経験だったと感じます。医師には、苦手な患者を作らず、常に良好な人間関係を築く力が要求されます。私は、どんなタイプの患者さんでも受容できる方なのですが、その感覚は高校時代に培われたものだと思っています。
医師をめざすモチベーションを高める授業が豊富なことも、大きな特色です。「テーマスタディ」では、私たちのグループは、テレビドラマで興味を持った法医学をテーマに選び、さまざまな資料を調べて発表しました。卒業生の講話では、医師としての心構えを学びました。そうした学びを通して、少しずつ医師の仕事の魅力がイメージできるようになりました。
現在は、川崎医科大学附属病院で救急科の医師を務めています。主な業務は、救急外来、救急一般病棟の管理、集中治療室、およびフライトドクターです。フライトドクターとは、119番入電の際に、医師との接触を急いだ方がいいと、消防が判断した場合に、ドクターヘリに同乗して、現場に出動する医師のことです。
私は月約10日担当しており、多いときは1日に5~6件出動することもあります。フライトドクターは、幅広い目配りやきめ細かな配慮が求められる、やりがいのある業務であり、誇りを抱いています。圧倒的に男性医師が多いのですが、今後は、女性医師が増えるように、後進の育成にも力を入れていきたいと考えています。