医学部に強い中高
2023.07.14
【秀明中学校・高等学校】 全寮制で「ムリ・ムラ・ムダ」のない教育を実践 夜間学習など独自の学習指導により難関大・医学部へ現役合格
月曜登校、金曜下校の4泊5日の全寮制が基本の秀明中学校・高等学校。もちろん週末も宿泊できるので北海道や四国など全国から生徒が集う。また、高校生の中には近隣から自転車で通学する生徒も。寮生・通学生問わず多くの生徒が難関大学・医師薬科系大学をめざし、毎年高い現役合格率を誇るその独自の教育内容について、尾上純一学校長に伺った。
学校長 尾上 純一 先生
教育のムリ・ムダ・ムラをなくし、トータルな学習時間を確保
教育上の最大の特色は全寮制にある。中学校は完全な全寮制であり、高校は希望により通学制も可能としているが、実際にはほとんどの生徒が寮生活を選択する。なぜ、学校以外の時間を自由に使える自宅ではなく、寮生活を選ぶのだろうか。尾上純一学校長は次のように語る。
「やはりトータルな学習時間が確保できることが大きいと思います。寮から学校までは1分ですから、通学による体への負担はありません。学びに集中できる環境があるのです」
寮内には日用品や文具を扱う購買部や自動販売機、ランドリーなどがあり、常駐する寮スタッフはきめ細かなサポートをしている
1日のスケジュールは以下の通りだ。まず、起床は6時30分。点呼と軽い運動の後、7時から朝食をとり、7時50分のホームルームに間に合うように登校する。昼食も寮の食堂で食べ、再び教室に戻って午後の授業を受ける。7限目の後のホームルームが終わるのが16時前後で、それから部活動などを行い、18時から夕食になる。
この後、全寮制における学習面での最大のメリットである「夜間学習」が始まる。18時45分には全員が教室に戻り、21時まで授業が行われるのだ。寮に帰宅してからも勉強できるが、消灯時間は中学が22時30分、高校が23時。テスト前や受験期などは、事前に申請すれば24時まで消灯時間を延長することもできる。これが月曜日から金曜日までの4泊5日の寮生の生活パターンだ。
「高3になると、24時以降も勉強したいという生徒もいますが、睡眠時間を削って勉強しても効率的ではないため、できるだけ消灯時間を守るように指導しています」(尾上先生)
一般の通学生なら自宅学習に相当する学習を、秀明の場合は教員の指導のもと、学校で行っている。通学時間はほぼゼロに等しく、部活動や睡眠時間を除けば、残りの時間をすべて勉強に費やすこともできる。このように、教育におけるムリ・ムダ・ムラを徹底的になくすことで、学習量を最大化させているわけだ。
そのため、平日に宿題は出ない。今日学んだことを今日のうちに定着させることで、確実な理解につなげているからだ。宿題が出るのは週末だ。関東近辺の生徒は、金曜日の授業が終わると帰宅するが、遠方の出身者など寮に残る生徒もいる。そこで、週末を無為に過ごさず、自学自習の習慣を維持するために、全員に週末課題を出している。
平日に行われる夜間学習では、予習・復習のほか、少人数制で徹底した問題演習を行う基礎講座や発展講座を受講
規則正しい生活習慣と対人関係能力が身につく
全寮制のメリットは、6年間通して豊富な学習量を確保できるだけではない。寮生活を通して、人間的な自立を促すことができる点も見逃せない魅力だ。
何よりも、規則正しい生活習慣が身につく。起床や食事、就寝の時刻が決まっていることで生活のリズムができ、健やかな心身の状態を保つことができる。食事は給食センターに依頼するのではなく、専属の栄養士が成長期に必要な栄養をバランス良く摂取できるように献立を考え、寮内の厨房でプロの調理師が調理したものを3食提供している。
3食とも厨房で作りたての食事が提供される
寮は、男女とも中学生が2人1部屋、高校から全員が個室となっている。
「同級生が何十人もいると、仲の良い友人もいれば、相性の良くない人もいます。しかし、社会ではチームで仕事をするわけですから、そういう人たちとも付き合っていかなくてはなりません。寮生活を通して、多様な人々とどのような距離感で付き合えばいいのかを実践的に学ぶことができます。全寮制によって、人間関係を築く力を養っているわけです」
このように寮生活は、自立心や協調性、コミュニケーション能力、他人への思いやりの心など、豊かな人間性を育むことに大きく貢献している。
「生活を共にするということは、自分の弱い部分をさらけ出すということであり、本音で語り合える仲間ができるのは確かです。大学や社会人になってからも新しい人間関係は築けますが、卒業生の多くが、秀明の友人は格別だと口をそろえて言います。多感な思春期に、楽しい時も悲しい時も一緒に過ごした仲間との結びつきは深く、あつい友情を培っているのです」
この全寮制が中高一貫教育のなかで提供されることが、「全人英才教育」につながっていくのだろう。
医師志望者が多いからこそ、指導も医学部進学に特化
進路指導においては、「生徒の希望進路を叶えること」を最大の目標に置いている。生徒の多くが、医師や歯科医師をめざしており、中学の段階で医療系学部を志望する生徒は半数を超えている。なかには、7割に達する学年もあるという。そのため、同校を卒業した医学部学生や医師らによる「医療講演会」を定期的に開催し、埼玉医科大学病院で医療体験実習を行うなど、職業としての医師について理解を深める機会も多い。中学・高校ともに3コース制で、高校進学時に成績や本人の希望などにより再編成されるが、全コースから医学部合格者を出している。
「医師志望者が多いことが、結果的に医学部受験にも対応しうる指導につながっています。教員も医学部入試に精通するようになり、医学部合格のための指導ノウハウも年々蓄積していくため、実績も上がるという好循環を生んでいるのです。もちろん、医学部以外の進路希望者にも個別指導を行い、生徒全員の希望進路の実現に努力しています。今春の大学受験では、国立大学では筑波大学、医学部では東京女子医科大学、獨協医科大学、埼玉医科大学など、ほかにも東京理科大学の工学部や国際基督教大学の教養学部に現役合格者を出すことができました」と尾上先生は進路指導の手厚さも語る。
入学時に自分の目標を書き記した、全生徒の「誓いのことば」が収められた秀明の塔
定期的に医療講話を開催し、医療問題に関する見聞を広めるとともに、進路希望をより明確にさせる
到達度別学習も徹底しており、中1・2は英数、中3は英数理、高校からは全教科で到達度別のクラス編成を行っている。自分の学力に応じた学習が行えるので、効果的に実力を伸ばすことができるのだ。
全人英才教育の一環として、「心の学習」も重視している。毎週ホームルームでは、社会で起きた事件や出来事などをテーマに、命の大切さや、良いことと悪いこと、許せることと許せないことなどについて議論しながら、自分の心を磨いていく。
「このように本校の全寮制教育は、学力を伸ばし、良好な人間関係力を育むには最適な環境だと考えています。本校出身の医師は、チーム医療のなかで中心的な役割を担う存在になっており、今後ますます活躍してくれると思います」と、尾上先生が胸をはるように、秀明の教育は教科学習以外の面でも医学部志望者に寄り添ったものになっているようだ。
※本記事は『日経ビジネス 特別版 SUMMER.2023〈メディカルストーリー 教育特集号〉(日経BP社)』に掲載されたものです。