医学部入試概況
2019.06.20
【北里大学医学部】
生命科学系総合大学のメリットを活かし チーム医療の時代を担う人間性豊かな医師を育成
2020年に創立50周年を迎える北里大学医学部。
生命科学系総合大学のメリットを最大限に活かし、他学部と密接に連携してチーム医療の時代の中核となる、優れた知識・技術と豊かな人間性を備えた医師を数多く医療界に送り出している。
その教育の特色、めざす医師像などについて、今春、医学部長に就任した浅利靖教授に語っていただいた。
北里柴三郎の精神を継承し社会に貢献する医師をめざす
──初めに、北里大学医学部の建学の理念、教育目標を教えてください。
浅利 北里大学は、医学の進展に大きな貢献を果たした北里柴三郎博士を学祖として生まれた大学です。
先生は常々「事を処してパイオニアたれ」「人に交わって恩を思え」「叡智を持って実学の人として、不撓不屈の精神を貫け」と門下生に言い聞かせていました。この先生の言葉を範として、本学は「開拓」「報恩」「叡智と実践」「不撓不屈」の4つを建学の精神としたのです。
さらに、建学の理念として「いのちを尊び、生命の真理を探究し、実学の精神をもって社会に貢献する」を掲げています。先生は「ただ研究するのではなく、その成果を世の中に役立てよ」と説いていたわけですが、その精神はノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生をはじめ、後進にしっかりと受け継がれています。
このような建学の精神・理念の下、医学部では、「人間性豊かで優れた医師の育成」「学際領域を含む医学研究の推進」「国際貢献の推進と地域医療への協力」「予防医学の推進」の4つを基本教育理念に掲げています。
基礎と臨床を円滑につなぐ器官系別総合教育
──医学部では、「器官系別総合教育」を伝統的に推進されていますが、その目的と教育上のメリットをお聞かせください。
浅利 例えば消化器系において、口からモノが入って消化され、排泄されるという過程に関係する病気について基礎医学を含めた病態生理を理解し、診断し治療するまでを一貫して学ぶというように、現在こそ、人の身体を臓器や系に分けて総合的に探究する器官系別総合教育を多くの大学が採り入れています。
しかし、北里大学医学部が1970年に誕生した当時、器官系別総合教育という発想は全国の大学に見られませんでした。本学では、開設当初からこの器官系別総合教育を導入してきたのです。
器官系別総合教育のメリットの一つは、基礎医学と臨床医学をスムーズにつなぐことができることです。医学部に入学すると、まず基礎医学の勉強として、ヒトの正常な構造と機能を学んだうえで、2年次後半から器官系別総合教育が始まります。
1年次から2年次前半にかけて学んだ基礎医学の知識を吸収したばかりの新鮮な気持ちのときに各臓器・器官に関わる病気についての講義がスタートすることで、学生の興味が喚起され、病気の時に人間の身体がどのような生化学的な反応しているかきちんと理解できるわけです。
そのうえで、2年次後半から3年次にかけて器官系別総合教育を受け、4年次から臨床的な疾患の病態生理から診断・治療までをしっかり教育していくという流れになっているのです。私も本学の卒業生ですが、医師としてはもちろん、学生に教育する際にも、器官系別総合教育を受けたことが大きな糧となっていることを強く実感しています。
──ほかには、どんなメリットがありますか。
浅利 基礎から各臓器・器官についてしっかり学んでいるので、一つの疾患だけにとらわれずに、自分の頭のなかでそれぞれの臓器に関わる病気を有機的につなぐことができるというのも大きなメリットだと思います。特に、臨床の現場に出たときにそれがわかるはずで、知識の整理がしっかりできていることを自覚できるはずです。
生命系総合大学だからこそ充実したチーム医療教育が可能
──現在、医療現場はチーム医療の時代になっていますが、北里大学でも他学部と連携しながら「チーム医療教育」に積極的に取り組まれています。その取り組み内容とそこから生まれるメリットについて教えてください。
浅利 まず、低学年次に『チーム医療論』という科目を学び、医療チームの構成員とその機能・役割など、医療の流れやチーム医療の基本的知識を頭に叩き込んだうえで、段階的にしっかりと学んでいきます。
5年次になり、臨床現場に足を踏み入れた頃に、5月の連休を利用して行うのが『チーム医療演習』です。医学部をはじめ、医療衛生学部、薬学部、看護学部の医療系4学部に2つの専門学校の学生も加わって、相模原キャンパスにおいて行うもので、与えられたテーマについて、それぞれの立場から意見を述べ合い、各々の職種について相互に理解し、医療人に不可欠なコミュニケーション能力を磨き、連携・協働できる能力、患者さんを総合的に診る力を身につけていきます。
さらに、臨床実習として『チーム医療病院実習』が行われます。本学は医療現場でもチーム医療体制がしっかり確立されていて、医師が示した治療方針に対して、看護師や薬剤師などが疑問を感じたら、必ずそれを医師に伝え、医師がそれを聞き入れなかったら、聞き入れてくれるまで何度もアプローチするという方針を徹底しています。
病院では「チームステップス」という講座をさまざまな医療スタッフが受講し、すべての医療スタッフがこうしたことを共通認識として持つように図っています。このように、大学病院でチーム医療が浸透しているので、医学部の学生が現場に入って目の当たりにすることで、チーム医療の意義を肌で理解するのです。
また患者さんに総合医療を提供する力を養い、医学部の教育理念の一つである「人間性豊かで優れた医師」、すなわちコミュニケーション能力と豊かなこころを持った医師となるための素養を身につけていくのです。
同時に、他学部の学生と連携して学ぶことで、「学際領域を含む医学研究の推進」という点でも得られるメリットは大きいと思います。最近では、「国際貢献の推進」という観点から、国際的なチーム医療を進めようと、外国人学生も交えて英語でディスカッションする実習を行うプログラムも設けられています。
学生は、将来医師として自分の取った判断や行動に対してしっかりと責任を持ち、自分の技術を自分で評価して管理できることが求められるため、チーム医療現場で他者の目にさらされながら実習することで、プロフェッショナリズムとは何なのかを実体験を通して学ぶ絶好の機会ともなっています。
──チーム医療実習を経験して学生はどう変わりましたか。
浅利 チーム医療の感覚を当り前のように持ってくれるようになる学生が多い。それは他の病院などに行ったときにはじめてわかるようです。
まだまだ医師としての実力はそれほどでもないのに、看護師や薬剤師、リハビリスタッフなどの話をきちんと聞き、真摯に対応できるため、他のスタッフからの信頼も得られるという話をよく聞きます。このように、教育効果はすぐに現れなくても、実際に現場に出たときに自然と身についていることがわかるようです。
医療系4学部、2専門学校の14職種でオール北里チーム医療演習に参加し、職種間の相互理解と連携、協働できる能力や患者さんを総合的に診る力を身につける
医師の仕事をリアルに実感できる実習を数多く開講
──医師としての責任を自覚させるために、教育のうえで心がけていることは何ですか?
浅利 医学部では、1年次より医学の勉強だけではなく、一般教養も学びます。救急内科・小児科・外科の当直も体験します。現場で実際に医師や様々な医療スタッフが一所懸命働いている姿を見ることで、医師として働くことへのモチベーションが高まります。さらに解剖実習では、献体に対して神聖な気持ちで真摯に臨むという姿勢を、体験を通して身につけます。
また、『臨床実習入門』では障害を抱える方などを招いて自分の体験談を話してもらい、学生に医師となるために自覚を促すように図っています。『早期体験学習』では医療・福祉・介護・保育・法律などの施設を訪問し、外部の人が医師をどう見ているかを体験したり、患者さんのナマの声を聞いたりすることも体験します。
医師の仕事をリアルに実感できる実習を数多く開講
──今や、医療界でもグローバル化は進展していますが、それに対してどのように対応されていますか。
浅利 6年次には、臨床の現場に入ってチーム医療の一員として実習に取り組む「クリニカル・クラークシップ」が3ヵ月にわたって行われますが、そのなかで本人が希望すれば海外の大学の医学部で実習できるようになっています。国内でも、交換留学生として外国人の実習生を受け入れており、日本人学生との交流が進んでいます。
また、1年次から3年次まで英語の教育を連続して行い、ネイティブスピーカーの指導も受けながら、医学英語をしっかり学ぶ機会を設けています。
──地域医療への貢献についてはいかがですか。
浅利 そもそも医学部のある相模原市はかなり面積が広く、人口も約70万人と少なくないのですが、中小の病院はたくさんあるものの、市民病院はなく、規模の大きい総合病院はそれほど多くありません。そのため、本学の大学病院は市中病院のように地域の方々が日常的に利用されていますので、そのなかで学ぶことで、自然と地域医療に貢献できる医師になっていきます。
また、相模原市の医師会自体が大学病院に対する期待が非常に大きく、医師会の先生方とも密接な関係を築いており、地域の病院から紹介されて本学の大学病院に来られたという患者さんも数多く見られます。
そして、相模原市には津久井湖や相模湖など豊かな自然に恵まれたところも多く、そこには病院や診療所がそれほど多くないため、本学では相模原市の委託を受けて医師を派遣しています。
さらに、本学には相模原市から奨学金の給付を受けて医学部で学び、卒業後は地元の医療に貢献するという学生も在籍しています。彼らと交流することで刺激を受け、他の学生も地域医療に対する意識が高まり、地元に帰って医療に携わることを考える学生も見られるようになっています。
臨床実習でも、さまざまな診療科で地域に学生を派遣し、地域の医療現場を体験できるように図っています。
医学部合格がゴールではない医師としての勉強は一生続く
──北里大学医学部では、どんな学生の入学を望みますか。
浅利 学力に優れているだけでなく、人の痛みがわかる人間性豊かな医師になってほしいので、友だちや身の回りの人の話を真摯に聞き、共に考えていけるような学生の入学を望みたいですね。
ともかく、医師とはどういう仕事なのか、一度じっくり考えてほしい。医師としてのやりがいとは何かを考え、病で苦しんでいる人に手を差し伸べてあげられるような、相手の立場に立ってものを考えられるような人になってほしいですね。
確かに医学部受験はかなりハードルが高いですが、そこで力を使い果たしてほしくない。医学部の勉強はハードですし、医師になってもそれで終わりではなく、そこは入り口でしかない。
医師としての勉強は一生続くのです。まして、いまの高校生が医師として活躍する時代はAIがますます発達し、医療の一部はAIが担うようになっているかもしれない。そのなかで医師として生き残るには、より人間性が求められるようになるでしょう。
こうしたことをきちんと考えたうえで医学部をめざしてほしいと思います。
──最後に、医学部を志している生徒に、これからどのような経験をしてほしいか、そして保護者はどのようなバックアップをしたらよいか、アドバイスをお願いします。
浅利 医学部に合格するにはそれ相当の学力が求められるので、しっかりと勉強してほしいのですが、勉強以外に何もしていないという人は、これからの時代に医師としてやっていくことは難しいと思います。
スポーツをはじめとする課外活動など好きなこと、熱中できることを持っている生徒はこれから伸びてくるし、他者とコミュニケーションできる。保護者の方も、子どもの視野を広げるように、さまざまな世界を見せ、いろいろな体験をさせてあげてほしいと思います。
将来、医師になることだけを目標とせず、どういう人生を送るのか、そのために自分は何をしたいのかをじっくり考えてほしいと思います。病気で苦しんでいる人を救いたい、医学の進歩に貢献したい、地域の人々に役立つ仕事をしたいなど、目的は何でも良いのでしっかり考えてほしいですね。
そして、自分はどんなときにうれしいのか、親に褒められた時か、誰かに有難うと言われた時か考えてみてほしい。医師という仕事はそうしたうれしさを実感できる仕事なので、そうなることを目標にしてほしいと思います。
これから時代は確実に変わり、今の生活が将来も続く保障はありません。AI、IoTの時代となることは確実なので、それを見据えて保護者の皆さんも子どもの将来のために何ができるか、考えていただきたい。
医師になった時の生活を話し合い、親子で医師をめざすという気持ちを共有できるようになればベストだと思います。
救急内科、外科、小児科の3診療科で病院体験当直を経験
緊張感に満ちた医療現場に身を置き、医師となる心構えや目的意識を養う
※本記事は『日経メディカル/日経ビジネス/日経トップリーダー 特別版 SUMMER.2019年6月〈メディカルストーリー 教育特集号〉(日経BP社)』に掲載されたものです。