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医学部入試概況

2019.06.24

【SAPIX特別対談】
ー医師をめざす中高生へのメッセージー
グローバル化・高度情報化で変わる医療現場
変化に対応するためには、幅広い学びが求められる

人工知能の発達や「2023年問題」などにより、グローバル化・高度情報化が急ピッチで進む医療の世界。それに伴い、医師に求められる資質、医学部の学びや医師国家試験、そして医学部入試も変化している。こうした状況のなか医学部をめざすにあたり、生徒は中学・高校で何をどう学び、保護者はどのような教育を心がけたらよいのか。高い医学部進学率で知られる灘中学校・高等学校校長の和田孫博氏と、医学部受験に詳しいSAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏に語っていただいた。

灘中学校・高等学校校長 和田 孫博 氏

灘中学校・高等学校校長
和田 孫博 氏 Magohiro Wada
1952年生まれ。1965年灘中学校に入学、中高一貫教育を受け、1971年灘高等学校卒業。1976年、京都大学文学部文学科(英語英文学専攻)卒業。同年、母校に英語科教諭として就職。2006年、同校教頭に就任。2007年より同校校長に就任、現在に至る。

SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表(代々木ゼミナール副理事長)・教育学博士 髙宮 敏郎 氏

SAPIX YOZEMI GROUP
共同代表(代々木ゼミナール副理事長)・教育学博士
髙宮 敏郎 氏 Toshiro Takamiya
1974年生まれ。1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)に入社。2000年4月、学校法人髙宮学園代々木ゼミナールに入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、2005年に教育博士号を取得。2009年より現職。

医学部ブームだからこそ
問われる適性や志望動機

髙宮 医師に憧れ、早くから医学部をめざす生徒が全国的に多く、根強い医学部志向が見られます。灘校は高い医学部進学率で知られていますが、医学部に行く生徒は、中学に入学した当初から医師になることを目標にしているのでしょうか。

和田 雑誌などでも、医学部進学特集や医学部に強い学校ランキングが盛んに掲載されています。その影響もあってか、「医師になるなら灘へ」といった動機で本校をめざすご家庭も多いようです。

髙宮 医学部に進学したいというニーズは大きく、それに応えるべく私どものグループでも相談会などを実施しています。医師というのは子どもが比較的早い時期に出会う職業で、ケガや病気を治そうとする姿は、子どもの目にヒーローとして映ります。

和田 その他の仕事に比べて、仕事の内容を思い描きやすいという点は医師の大きな特徴でしょう。一般的に、高校の進路を決める段階で自分の将来の仕事内容を具体的にイメージするのはなかなか難しいものです。

さらに、医師はリストラなどのリスクが少なく、社会的地位も安定しているというイメージが強いため、保護者も勧めたくなるのでしょう。こうした理由から医学部ブームが高まり、「より高い目標をめざしたい」というタイプの生徒がチャレンジ精神をかきたてられて受験し、さらに医学部人気が高まる……という循環があるようです。

しかし、医学部では6年間、さらに卒業後もかなりの量の勉強をしなくてはなりません。しかも、暗記を求められる分野も多く、それが苦手な人にはつらいようです。「医学部なら将来安泰だから」「偏差値が高いから」と安易にめざすことには危うさを感じます。

これからの医療に求められるのは
AIに代替されない「人間力」

髙宮 今、医学教育の現場が直面しているのが「2023年問題」です。アメリカで医師として医療行為を行うには、アメリカの医師免許が必要ですが、2023年からその医師免許制度が大きく変わります。

従来は日本の医師免許を持っていれば、無条件でアメリカの医師免許試験を受験できたのですが、2023年からは、アメリカが認証を与えた医学部の卒業生でなければ、試験を受けることさえできなくなるのです。

そこで日本の医大・医学部では、アメリカで受験資格の認証が受けられるよう、国際基準に対応したカリキュラムへの改編を進めています。簡単に言えば、従来の知識偏重型カリキュラムから、臨床実習重視型カリキュラムへ変わりつつあるということです。

それにより、これまで6年のうち1年半かけてやっていた実習が2年に伸び、前半の知識の詰め込みがさらにきつくなりました。私どもが旧帝大の医学部生にアンケートをとったところ、どこの学校でも「前半のカリキュラムがハードでつらい」という声が上がっています。

AIの時代を迎えようというのに、「全部覚えろ」ということにむなしさを感じるという声も聞きます。こうした暗記中心の勉強を、医学部に進学する以上は覚悟しないといけないのでしょうか

和田 少なくとも現状の制度では、そのとおりでしょう。6年間で学ぶべき単元は決まっており、それをベースに医師国家試験が課せられるわけですから、どの医学部も最低限そのハードルはクリアしなければなりません。

髙宮 教える側もカリキュラムをこなすのに精一杯で、ルーティンになってしまっている部分もあるようです。

和田 構造的な改革が必要といえます。医師は今、倫理的な部分を深く問われる場面が増えています。それらに対応するには、6年で一人前の医師に仕上げようとする現状のカリキュラムに無理が生じていると思います。医師になるにせよ、研究者になるにせよ、ベースになるリベラルアーツの部分をどう育てるかが問われています。

和田 知識を体系として網羅して頭に入れることは大事ですが、知識だけであれば、AI(人工知能)がカバーできる部分が多くあります。知識を適切に運用するためには、幅広い教養が必要だということですね。さらに今後は、〝人対人”のコミュニケーション力も問われるようになるでしょう。

和田 おっしゃる通りです。まさに〝人対人”の部分が、特に臨床医にとっては、ますます大事になります。「コミュニケーションをとるのが苦手だ」という人は、本当に臨床医をめざしてよいのか、じっくりと自問したほうがいいでしょう。

日本史の授業風景。「武士とは都・地方どちらにいるものを指すか」について議論する教員・生徒たち

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医療の現状に触れることは
医師の適性を見つめ直す機会

髙宮 チーム医療が重視されるようになったことを反映してか、医学部入試では、グループ面接を実施する大学が増えています。こうした医学部入試の変化や医学部の現状、医師のあり方などを伝えるために、灘校ではどのよう取り組みをなさっていますか。

和田 本校では「土曜講座」というプログラムがあり、理系や文系といった分野に関係なく、いろいろな講師を招いて講演などをお願いしています。その中で、何度か医師の方にも来ていただいています。トピックスとして、最先端医学の話をしてくださる人もいますし、医学部で学生教育をやっている人たちから見た医学部の現状、今の学生の足りない部分などについて話してくださる方もいます。

たとえば、「コンピュータは得意だけれど、実際に患者さんと面と向かうことが苦手な学生が多い」「研修医として現場に入っても、患者の顔を見ずに、コンピュータを叩きながら電子カルテをいじっている人がいる」「顔やしぐさを見ながら会話すれば腹痛だとわかるのに、カルテに向かったまま『どうされましたか』と聞く人がいる」などなど。そういった話を聞くと、本当に医師の適性が問われる時代になってきたなと感じます。

こうした医療の現状を詳しく教えるほど、医学を志す生徒が減るのではという危惧はあります。しかし、こうしたことこそ、きちんと中高時代のうちに伝えておくべきだと考えています。

たとえば、ある外部の体験授業の中には『早期医療体験プログラム』というものがあります。夏休みの数日間、少人数の高校生が、東京では順天堂大学病院に、大阪では大阪大学病院に出向き、それぞれの心臓血管外科の医療現場に立ち会って研修を行います。こうした取り組みは高校生が将来に向けて覚悟を決めるよい機会となっています。

髙宮 高校時代から医療現場などで研修をして、医師としての倫理観や適性を見つめ直すというのは貴重な体験ですね。実は、私も家族の医療現場に立ち会ったことがあるのですが、医師という仕事に求められる資質について改めて考えさせられました。

コミュニケーション力も大切ですが、治療の選択肢が複数あるなかで、「症状の原因はこれだから、この薬を使う」という決定を緻密に行っていくのを目の当たりして、医療現場ではやはり論理的に考えることが求められるのだなと実感しました。

和田 まず選択肢を数え上げ、条件に当てはまらないものを一つひとつ取り除いていく。こうした論理的思考の基本は、中高時代に数学などを通して培っておくべきですね。

土曜講座の一コマ、鉢植え盆栽の作成を習う

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早くから「専門」を決めずに
中高時代は幅広い学びを

髙宮 以前、シリコンバレーで起業し、AIを活用した企業経営をされている石角友愛さんが、「AIバイリンガル」という言葉を使っていらっしゃったのが印象に残っています。

シリコンバレーで活躍している方々はAIばかりに集中しているのではなく、哲学や心理学といった人の内面についての知見も持ち合わせていると指摘されていました。「AIで何かを解決しようとするとき、AIの技術だけ知っていても対応できない。人間を知らないといけない」と。

医療に関しても同様で、医療に関する個々の技術や知識は当然必要ですが、医療全体としては、たとえば経済の仕組みもわかる人材が必要になってくるのではないでしょうか。

和田 その通りです。医師であっても、病院を経営したり、大学の医学部全体をマネジメントしたり、後進を指導するといった立場になれば、経済や経営、さらには教育学的な発想も必要になるでしょう。これは、あらゆる分野に言えることだと思います。

ですから、中高時代はいろいろなことを幅広く身につけ、その上で大学に進学してから専門の道に進む、という学び方がよいと考えています。医療系のスペシャリストでもヒューマニティーズ(人文科学)は必要ですし、文系に進むにしても統計学などは大切です。

そういう意味で、日本は専門分野を選ぶ時期が早すぎるように思います。アメリカでは大学で4年間学んだあとに、メディカルスクールに進みます。あるいは逆に、医学を学んだあと、ロースクールやビジネススクールに進むという人が珍しくありません。

日本でも同じように、幅広く学んで最終的に専門を選ぶという方向に持っていかなければ、社会全体を大きく変えていくことはできないと思います。

「教える」よりも、問いかけて自分なりの
答えへと導かせる教育が自ら学ぶ意欲を育む

髙宮 今の社会は、短期間で成果を求める傾向が強いように見受けられます。その点、灘校は短期間で結果を求めることなく、生徒の人生を長いスパンでとらえた教育を行っていらっしゃり、その方針に共感しています。

和田 これからは、IoT(Internet of Things)の進化も含めて、今までとは違う世の中になっていきます。それに対応するためには、既存の大学の、既存の専門教育がそのまま使えるとは考えられません。

新しい時代の、まだ見えてきていない課題に対応するためには、リベラルアーツをベースにした広く、深い知識が必要になってきます。中高時代は、その基礎を築くことが大切だと思います。

もう一つは、未知の状況のなかでいち早く問題に対処していくためには、「そもそも何が課題なのか」を見出す力が必要になります。課題に気づくためには、いろいろなことへの好奇心を持ち続けることが必要です。

小さな子どもは、大人が考えもしないようなことに好奇心を持ったり、集中して取り組んだりします。そういう好奇心や集中する心を、私たち大人や学校が削いでしまってきたのではないでしょうか。

少子化の時代、将来を背負う貴重な人材を育てるためには、子ども一人ひとりが自分の興味のあることを深く学べる環境を用意しなければなりません。そのためには、教えたことだけをを復習させるような、従来型の学習スタイルから脱却する必要があります。

これからは、自ら学ぼうという意欲を育てるような学習スタイルが望ましいですね。子どもは「なぜ」「どうして」といろいろと問いかけてきますから、大人は面倒くさがらずに一緒に考え、答えることが大切です。

そして逆に、大人からもいろいろなことを問いかけてほしいですね。自分は答えがわかっていても本人に調べさせる。そういう教育が望ましいと思います。

アメリカでは、学校教育でもそうした取り組みが普及しつつあり、一つのテーマに対して問いかけをたくさん用意します。日本の教育もそういう方向へ変わらざるをえないでしょう。

ご家庭でも、大人からまず問いかけ、子どもがいろいろと調べていくように促してみてください。調べる道具としては、インターネットを使ってもかまわないでしょう。今後はIT機器などを上手に使うことも、子育てや教育で大事になってくると思います。

2012年以降続く「灘校東北企画」。生徒有志が東日本大震災の被災地を訪れ、ワークショップなどを通じて課題認識を深めている

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競争社会ではなく
協働社会で生きていくための力を

髙宮 日本は今、「医療ツーリズム」をはじめとする医療のグローバル化に力を入れ始めています。医学を志す人たちもグローバル化とは無縁ではいられません。諸外国の学生がどのような学びをしているのか、気になるところでしょう。

たとえば、アメリカの教育現場は、「勉強さえできればよい」という視点で評価を行っているわけではありません。「リーダーシップ」や「クラスでの発言」なども勘案して、「学年を一つ落としますか」といった提案が保護者になされたりします。アメリカの学生はそういった環境で育ってきていますから、人前で発言するうまさや強さがありますし、考える習慣もついています。

一方、「黒板に書かれたことを覚える」という授業に慣れてしまった日本の学生は、海外大学などに進んだ場合、アメリカの学生のように小さいときから人前で発言するように鍛えられている人たちと一緒に学ぶことになり、大変な思いをするといいます。灘校では、そうした点も視野に入れて、早くからアクティブラーニングを取り入れていらっしゃるそうですね。

和田 課題を出して、その答えを考えさせ、その根拠を述べさせる。そしてその根拠をもとに、議論させたり、発表をさせたりするという取り組みを行っています。こうした能力は、今後ますます求められると考えています。

おそらく今後は、競争する社会というよりは、さまざまな人と協働する社会へと変わらざるを得なくなります。そうした環境でやっていけるよう、グループで協働する、そしてそのなかでリーダーシップがとれるような体験を積んでいくことが大切になるでしょう。

髙宮 学校でも家庭でも、子どもの「なぜ」を大切にして、さまざまな体験をさせたいですね。本日はありがとうございました。

男女共同参画社会への理解を深めるために、「赤ちゃん先生」という高校3年生の社会科実習講座を開講している

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※本記事は『日経メディカル/日経ビジネス/日経トップリーダー 特別版 SUMMER.2019年6月〈メディカルストーリー 教育特集号〉(日経BP社)』に掲載されたものです。

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