医学部受験は情報戦! 医者になりたいキミに「メディカペディア」。

医学部ガイド

医学部教育の現状

2024.01.10

【WILLナビnext 2024/医学部研究・医学部ってこんなところ―日本医科大学―】

AI時代の医師に必要なのは
コンサルティングの資質や
クリエイティビティ


この春、中学生になる皆さんのなかには「将来は医師になりたい」と考えるようになる人もいることでしょう。医師として活躍するには、どのような能力が必要なのか、大学の医学部でどのような教育が行われているのか、いろいろと気になると思います。そこで、医師になるために中高時代をどのように過ごせばいいのかも含めて、日本医科大学の弦間昭彦学長にお聞きしました。

日本医科大学 学長 弦間 昭彦 先生 日本医科大学 学長 弦間 昭彦 先生

AIの普及に伴って 変化する医師の仕事

──現在の医師が置かれている現状をどうご覧になりますか。

弦間 人口減少によって将来的には医師が余るだろうと言われていますが、今でも医師不足が深刻な地域があり、地域によって状況は全く異なります。東京など大都市圏では医師不足を感じることは少ないものの、医療がどんどん専門性を高めて細分しているために守備範囲の狭い医師が増えていることや、働き方改革などで労働時間の制限がかかるようになっていることなどの影響で、現場感覚でいえば、どれだけ医師がいても足りないと感じるような状況が生まれていると思います。

──守備範囲が狭い医師とはどういう意味でしょうか。

弦間 たとえば胃の内視鏡とか、心臓カテーテルの技量を身につけて、その専門性だけで勝負していくような医師のイメージです。その技量がいつまで保てるかということもありますし、全人的な診療の質とか、医療の進歩に対する対応力という点からいえば、少し心許ないのではないかと思っています。そういう専門医も一定数は必要ですが、世の中の多くの人は、人全体を診ることができる専門性をもった総合診療医を求めているのだと思います。

──これからは、どのような医師が望まれているのでしょうか。

弦間 昨今のAIの進歩を見ていると、医療現場にはAIが急速に入ってきます。これまでの医師は、医学の進歩に伴う膨大な知識をインプットして、それを維持し続けなければならない状況にありました。しかし、AIが入れば、医学全体を理解することが必要なことは変わらないにしても、細かなデータを隅々まで覚えて維持し続けることからは解放されます。患者さんのデータや状況をAIに入れれば、ある程度の診断や治療方法がリスト化されて出てくるようになるでしょう。そうなると、これからの医師には、コンサルティングやクリエイティビティの能力がより求められるようになると思います。

──医師のコンサルティングとは何でしょうか。

弦間 コンサルティングは相談という意味であり、患者さんは受診することで相談に来ているわけです。ただ、患者さんの価値観とか人生観は非常に多様ですから、まずはそれらを理解できる人間性が必要です。また、合併症や併存症をはじめ、いろいろな部分が人によって千差万別ですから、それらをしっかり把握する必要があります。そのうえで、専門家として最も望ましい治療方針を提案できることがコンサルティングだと考えています。もちろん最終的に決定するのは患者さんですが、いくつかの選択肢を示すだけで選択を患者さんに任せてしまうのではなく、もう1歩踏み込んで、プロフェッショナルとして責任を持ってより良い決定を促すことができる医師であってほしいと思っています。

──クリエイティビティとは具体的にどのようなものですか。

弦間 AIがどれだけ進歩するのかわかりませんが、今ないことを作り上げていくことは、やはり人間の大きな役割になると思います。医療でいえば、リサーチマインドを持った医師、つまり少しでも疑問に思うことがあれば、自分で調べ、結果を出していくような姿勢を持った医師が望まれるということです。現在は、エビデンス(科学的な証拠)に基づいた医療が推奨されており、AIによってエビデンスの蓄積は進んでいくと思います。しかし、エビデンスの少ないところに対する医学的な推論は、人間の経験に負うところが大きいと思っています。もちろん、AIが出した答えの最終的な責任を負うのも人間です。

ICTを駆使することで 医学教育の個別化が可能

──日本医科大学のカリキュラムの特色を教えてください。

弦間 本学では、8年ほど前から専用のスタジオや撮影機器を揃えながら、教育のICT化を進めてきました。5年前からは全講義を配信し、eラーニングで学べるようにしました。ですからコロナ禍も混乱なく乗り越えることができました。その狙いは2つあります。1つは学生の能力に合わせた個別化教育、もう1つは新しい医学教育のあり方の模索です。個別化教育でいえば、授業レベルを成績中位層に合わせ、上位層の学生には座学の出席を免除、eラーニングと試験だけで単位を認定することにしました。事前に提出する学習プランと結果報告をセットにして、留学でも研究室での研究活動でも、学びをどんどん先に進めることができます。下位層に対しても、単位を落としたのが1、2科目程度であればeラーニングで再度履修させることで、留年を避けることができます。新しい医学教育でいえば、学生の見学が困難な救急救命の現場に360度カメラを設置し、一番良い視野で、臨場感を持って学べる仕組みを作りましたし、各診療科で行う臨床実習で扱う症例の数を大幅に増やしました。一般的な大学では、学生は担当する患者さんの症例を1人決めて体験しますが、本学では重要な症例はケースシェアリングも含めてすべて扱うことにしています。このようなICTを駆使した医学教育は、全国でもかなり先を走っていると自負しています。

──医師をめざす上で、中高時代にやっておいてほしいことはありますか。

弦間 うーん、難しい質問ですね。医師には人間性が重要で高めてほしいとは思っていますが、現在の医学部入試では、どうしても受験勉強に多くの時間を割かざるを得ません。もちろん、受験勉強自体には、集中をして勉強するとか、ストイックな状況に自分をおくトレーニングができるといったメリットもあります。医師は生涯にわたって学び続けなければならない職業ですから、受験勉強を通してそういう姿勢を身につけることには意味があります。とはいえ、可能であれば、中高時代にしかできないいろいろな経験を積んでおいてほしいとは思います。本学は早稲田大学付属・系属の高等学院、本庄高等学院、早稲田実業の3校に対して各2名の推薦枠を持っています。この枠で入学した学生は、部活にも受験とは関係ない科目の勉強にも一生懸命取り組んできましたから、教養もありますし人間性も磨かれています。誰もが推薦入学で医学部に入れるわけではありませんが、それを目指せる環境にあるのなら、選択肢に入れておいてもいいかもしれません。

──現状では、多くの中高生が厳しい受験勉強を強いられます。

弦間 熾烈な競争を勝ち抜いてきたエリートだという意識ではなく、自分にはいろいろな経験が足りていないという認識を持っていてほしいと思います。大学に入学すれば、自分よりも優れた人に出会い、自分の教養や経験の少なさを痛感するでしょう。そこから始めても十分に間に合いますし、本学にはそれができる環境があります。

日本医科大学

〒113-8602  東京都文京区千駄木1-1-5
TEL 03-3822-2131

【プロフィール】

学長 弦間  昭彦(げんま あきひこ)先生

1983年日本医科大学卒。
日本医科大学大学院修了。
National Cancer Institute/NIHへの留学後、1998年日本医科大学講師。
医学部長を経て、2015年より現職。

キーワードタグ

関連記事

新着記事

一覧を見る

toTOP