医学部入試概況
2017.03.09
【医学部受験最前線】医学部受験突破のカギは、 無駄のない緻密な準備
医学部人気が相変わらずスゴい。 私立大学の志願倍率は20倍・30倍が普通で、70倍を超える大学もあるなど、 ほかの学部では決して見られない超激戦の様相を呈している。 なぜ医学部はこれほどまでに人気なのか。 そして、この超激戦の医学部受験を乗り越えるには どうすればいいのか。 代々木ゼミナール入試情報部の加藤広行部長に訊いた。
※本記事は『日経メディカル/日経ビジネス/日経トップリーダー 特別版 WINTER.2017年1月〈メディカルストーリー 入試特別号〉(日経BP社)』に掲載されたものです。
異常に高い浪人比率 背景にあるのは医学部人気
「現在の医学部受験の状況を一言でいうと、非常に競争が激しく、難易度もとても高くなっており、医学部に入るのはますます難しくなっているといえます」
加藤部長は冒頭から医学部の現状をそう語る。
医学部の志願倍率を他学部と比べてみるとその差は歴然だ。2016年度、国公立全体の倍率は4.7倍だが、国公立医学部の倍率は6.7倍。私立大学に至っては、全体では12.3倍だが、医学部は36.5倍。約3倍も競争率が高いのだ。
2014年度の浪人比率を見てみると、国公立と私立を合わせた全学部平均は約16%、ところが医学部は約62%。私立の医学部に至っては約71%と約7割が浪人生だ。大学受験全体では現役率が年々高まっているが、医学部においては現役で入ることがまだまだ至難の業であることがわかる。
難易度も上がっている。センター試験の平均点は概ね60%だが、国公立大学医学部では7科目平均で90%が目標だ。2016年度で数学ⅡBの全受験者の平均点は50%そこそこだが、医学部受験はそれから40%も高い点数をとらないと勝負にならない。
私立大学医学部の1次試験と2次試験の合格率を見ると、2016年度の一般入試で1次合格率は昭和大学で約16%、東京医科大学は約14%、東海大学に至っては7%にも満たない。仮に2次試験に進めたとしても、東海大学の2次試験の合格率は50%なので、1次受験者のうち最終合格できたのは約3%という超狭き門になっている。
こうした背景にあるのが医学部人気だ。2007年度から2016年度の間、国は医師不足などの解消のために医学部の定員を少しずつ増やし、国公立、私立を含めた医学部の定員は21.5%増えた。ところが、医学部人気により医学部受験者は増え続け、その間、34.6%も医学部受験者は増えている。定員増をはるかに上回る受験者増となっているのが現状なのだ。
「医学部人気の背景にあるのは、日本が長い不景気を経験し、受験生の『資格志向』という流れがあります。教員免許や建築士など多くの資格があるなかで、一番のステイタスは医師免許です。医師という職業の安定性に加えて、近年は私立の医学部で学費の減額や奨学金制度の拡充が相次いでいます。そのため、医学部をめざす受験生が増えていると考えています」
志望校を絞り 無駄なく対策するのがカギ
このように倍率も高く、難易度も非常に高い医学部受験だが、どうすれば突破できるのだろうか。その秘訣を「心技体」と語る。
「まず『心』ですが、『医学部は最難関だから』『周りに勧められたから』『高収入だから』ではなく、やはり、『人の命を救いたい、健康を守りたい』という使命感や責任感が必要です。また、超激戦の医学部に合格するには並大抵の努力では足りません。そういった志や覚悟がないと厳しい医学部受験を乗り越えるのはまず無理と考えたほうがいいです」
「技」については、最初に志望校を絞ることをあげる。「現実的な問題として学費があります。国公立は6年間で350万円ほどですが、私立は平均で3000万円を超えるので、まずはそれが払えるのかどうかを考えます。そして重要なのは候補を5校くらいに絞ることです」
大学によって各科目が均等配点のところ、特定科目の配点を重視しているところがある。また、出題範囲や傾向にも大学ごとの特徴があるため、自分の得手不得手によって有利になる大学、不利になる大学が出てしまう。まずは自分にとって相性のよい大学を選び、いかに効率よく勉強していくことができるかが合格へのカギだという。
「医学部はただでさえ難しいので候補を広げすぎると逆効果です。一流のスポーツ選手が大切にしていることに『無駄な練習をしないこと』があります。まさにこれなんです。『戦略』といいますが、これは『戦いを略する』ということです。合格に必要なことだけをすることが重要なんです」
国公立大学の場合、センター試験後に志望校を変えることができるが、思ったより成績が悪かったからと慌てて志望校を変えても、その大学の2次試験対策ができていなければ合格は非常に難しいため、あらかじめ「92%ならA大学、88%ならB大学」などと決めて2次試験対策を講じておくことを勧める。
私立大学の場合、夏ごろまでに各大学の入試日程が発表されるのが通例。1次や2次の試験日だけでなく、合格発表日や手続締切日も確認し、自分との相性を含めて早めに受験校を絞り、効果的に対策するのが必要だ。
センター試験は満点を目標に 超難問は捨てる勇気を
志望校を決めたら、まずすべきことは、「自分の立ち位置」を知ることだ。志望校の合格点を調べ、どの科目が何%足りないのか、何が課題なのかをしっかりと把握し、それをベースに対策を進めていく。
医学部は難易度が高いため、センター試験の目標点は全科目で90%をめざし、「満点を狙う感覚」で臨むことを勧める。ただし、時間配分や解く順序も大事だという。
「センター試験の英語は大きな問題が6つ出ますが、3~6は読解や長文で、配点の比率も高いです。長文が苦手なら時間を多めに確保したり、状況によっては解答順序を変えるなどの作戦が必要です。また、各大学の学科試験には誰にも解けないような超難問もあります。それに時間を費やしていたら正解できる問題を解く時間がなくなってしまう。問題をパっと見て、どれが超難問なのかをまず見極め、捨てる勇気も必要です。こうした作戦は模擬試験や過去問対策で何度も練習することでたてることができます」
そして、「忘れてはならないこと」と語るのが本番同様の練習だ。例えば、センター試験では、初日に地歴公民、国語と続き、疲れているときに英語の筆記とリスニングが待っている。それと同じような環境をつくって英語の過去問練習をやるべきだという。「朝イチのフレッシュな状態で良い点数が取れたとしても、本番の疲れた状態では期待通りの点数とならない可能性があるからです」
医師の適性を見る問題には アナログ的勉強が効果的
国立の総合大学の場合、問題はほかの学部と共通なことが多いが、規模の小さい大学や医療系単科大学の場合、医学部専門の問題になり、英文でも医療系をテーマとした長文が出たりする。そして、医学部の試験問題にはほかの学部にはないある特徴がある。「医師としての適性」を試す問題が出ることだ。
「医師になると、研修医時代なら当直で救急の患者さんが運ばれてくることがあり、どうしたらよいかわからなくなる状況に追い込まれます。また、内科などでは多くの患者さんを迅速かつ適切に診療していく必要があります。どんな状況でもミスなくスピーディーに行動できるかを見るために、超難問を出したり多くの問題を解かせるのが特徴です。医師としての適性を、入試問題という形を借りてチェックしているわけです」
こうした医学部ならではの問題を解くために「ぜひ推奨したい」のが、所謂「読み」「書き」「そろばん」の実践だ。スマホのようなデジタル機器に頼るよりも、声に出して読み、手を動かして書く。数学も考え方が合っているからと部分点がもらえるだけでは医学部合格には足りないので、計算まできちんとできないといけないことからも、地道なアナログ的勉強法のほうが効果的だという。
医学部ならではの変化球がある 面接・小論文
そして、「決して疎かにしてはいけない」と強調するのが面接・小論文だ。面接は九州大学を除くすべての大学で実施しており(東京大学は18年度から実施。九州大学は「志願理由書」の提出必要)、小論文も私立の医学部の約7割で行われている。
「面接を実施するのは、学科試験では測れない人間性や適性を見るためです。医師としてふさわしいか否かを見分けるという側面もあります。医療現場は予期できない事態の連続で、マニュアルに頼らない臨機応変な状況判断が不可欠です。そのため医学部の面接は変化球型の質問がとても多いんです」
もちろん「志望動機」など定番型の質問もあるが、代々木ゼミナールが調べたところ、数々の変化球型の質問や課題が明らかになっている。
群馬大学では「円高ドル安を小学生に説明してください」、福島県立医科大学では「幸福度で色分けされた世界地図の説明をしなさい」、鳥取大学では「鳥取の人口はどのくらいか」などがある。さらにこんな課題も出されている。「紙に書かれた図を言葉だけで他人に説明し、同じ図を描かせよ」(東邦大学)。また小論文でも、「3年間付き合っている相手に別れの手紙を書け」、「『顔』というテーマで600字以内に述べよ」(愛知医科大学)のようなものもある。
面接は用意しすぎは禁物 会話のキャッチボールが基本
「こうした変化球に対応するには、社会全般へのアンテナが必要です。ニュースを観たり新聞を読むなどの習慣をつけるべきです。また、社会の出来事に対して感想だけでなく、自分の意見や、医療事故の場合であればその防止策など医師目線の改善案をもつことも大切です。練習をする際は本番の面接官を想定して、ふだんあまり面識のない年長者(現役生であれば、担任の先生以外など)にお願いするのが効果的です」
しかし、面接や小論文の変化球型の質問や課題に模範解答のように答えるのは容易なことではないが、大学は答えの内容よりも対処の仕方を重視しているという。
「例えば、横浜市立大学の小論文では課題文なしで『我が国の食料自給率について考えを述べよ』という問題が出ました。食料自給率の実績としては、平成27年度のカロリーベースで39%、生産額ベースで66%ですが、仮にこうした数字を知らなくても、所定の時間内にいかに論理的に自分の意見を述べられるかが合格点を取るためのカギです」
ただ、面接においては練習しすぎもよくないという。面接は用意したことや覚えていることを発表する場ではなく、初対面の面接官と「会話のキャッチボール」をする場だからだ。背伸びや嘘は絶対にしてはならず、立ち居振る舞いも大きな判断材料になるため気を付けるべきだと忠告する。
「家族ができることとしては、新聞のスクラップを集めたり、日課として一緒にニュースなどを観て意見を交わしたりするのが有効です」
最後に心技体の「体」に触れ、必要な量の食事と睡眠、家族全員で健康管理に留意することなどをあげた。
自分の弱点を知り それを克服できる 人は強い
万全の準備をして見事合格すればいいが、ハードルの高い医学部受験はなかなか思う通りにはいかない。不合格の場合どうすべきなのか。
「浪人時代が現役と異なるのは、生活全体が医学部受験中心にシフトすることです。そのため日々の生活をどうデザインするかが重要です。予備校の講師や職員からの指導やサポートもありますが、自己管理能力が欠けていては学力はつきません。予備校選びは学科試験・面接・小論文のトータルで指導してくれるか、試験科目や入試データなどの有益な情報が豊富かどうかをチェックするとよいでしょう。さらに、講師の指導力も重要です。予備校では2~3月ごろに校舎見学や体験授業ができるので、そこで判断してみてください」
加藤部長はこれまで医学部を受験する人たちを数多く見てきたが、合格する人たちにはある共通点があると感じている。
「一つは自分を知っている人です。自分に何が足りないのかをしっかりと把握し、それにきちんと向き合って克服した人は強い。弱点は学科試験だけでなく面接や小論文でもいえます。またアクティブな点も合格者の共通点です。わからないことがあれば講師に積極的に質問をしてどんどん問題を解決していく、予備校をうまく使いこなしている人ですね。さらに気持ちの明るさも必要ですが、大前提としては医学部受験に勝つための『志と覚悟』のある人です」
他学部では見られないほどの高い競争率と難易度を誇る医学部受験。「仮に浪人したとしても、『この1年が勝負だ!』という強い気概をもつことが大切です」と最後を締めくくった。