医学部に強い中高
2017.02.27
広尾学園 医進・サイエンスコース
当事者意識を持った主体的な学びが育む 医師・研究者としての確かなマインド
サイエンスラボでは、生徒がiPS細胞の培養を行うなど、大学並みの設備が完備されている
“本物に触れる”をモットーに、研究活動をはじめとする数々の独創的・先進的な教育プログラムを導入し、次代の医師や研究者を育てる広尾学園医進・サイエンスコース。その成果は着実に現れ、今春、医学部合格者が飛躍的に増加した。医学部合格のその先を見据え、将来、医師・研究者とし生きていくための「マインド」を育てることに力を注ぐ同コースの教育の狙いや特色について、マネージャーの木村健太先生にお話いただいた。
※本記事は『日経BPムック2017/日経メディカル「医学部進学ガイド」 』(2016年10月発売)に掲載されたものです。
医進・サイエンスコースマネージャー
木村 健太先生
前年の3倍以上に伸びた 医学部合格者
─今春(2016年度)入試では、医学部合格者が大きく伸びましたね。これほど急速に合格実績が上がった要因は何だと思われますか。
木村 医進・サイエンスコース(編集部註:以下、「医サイ」と表記)では、次の3つの教育目標を置いています。第一は、学習はもちろん、自分の人生にも能動的に、前向きに取り組む「主体性」。第二は、自分がこれからの医療を支える一人なのだという「当事者意識」。そして、第三は医学そのものだけでなく、人と人との接し方なども含めたすべてのことを、主体的に当事者意識を持って学ぶための「学び方を学ぶ」ことです。医師という職業は生涯を通じて学び続けなければならないからです。
今回、前年は6名だった医学部合格者が、21名と3倍強に急増したのも、彼らがこの3つを確実に身に付け、将来医師として社会に貢献したいという高いモチベーションで受験に臨んだからこそだと思います。
ただし、医学部合格はあくまで医師免許を取得するための手段でしかありません。その先にどんな進路が開けているのか、自分はどんな医師になりたいのか、そもそも医療とは一体何なのかということを、前向きに考えることを医サイは重視しているのです。
主体性と当事者意識を育てる 研究活動
─医サイの特色の一つでもある研究活動は、主体性や当事者意識を身に付け、学び方を学ぶ絶好の場ではないでしょうか。
木村 その通りです。生徒が自分でテーマを設定し、指導教官の下で研究を進める研究活動では、論文として投稿できる、あるいは学会で発表できるレベルの、新規性が高く、実現可能性が見込める、社会貢献につながるテーマに限るという高いハードルを設けています。
このような高度なテーマを研究していくには、まず研究に必要な信頼性の高い情報をどう集めるか、集めた情報の信憑性をどう担保するか、集めた情報を基に何をどう考え、どのような方法で対象にアプローチするか、といったことをすべて自分で考えなければならない。このような作業を通して、生徒は主体性と当事者意識を持って学習なり、研究活動に取り組むようになります。
地域医療研修をはじめ “本物に触れる”場を豊富に用意
─第一線で活躍している医師や研究者の方を招聘するなど、〝本物に触れる〟ことを重視しているのも医サイの大きな特長ですね。
木村 これから医師として生きていくには、医療現場の今を知り、医療が抱えるさまざまな課題に、自分自身の問題として向き合うことが重要です。〝本物に触れる〟ことを重視しているのはそのためです。
本物に触れる機会の一端として、総合診療医の第一人者である大阪医科大学の鈴木富雄先生にご協力いただき、「地域医療研修」を実施しています。兵庫県神河という地域にある公立神崎総合病院を舞台に、大阪医科大学の医師国家試験を控えた6回生、地元の高校生、そして医サイの生徒が3人1組となって、地域医療の現場を体験します。
地域医療研修を始めたのは、生徒がともすると最先端医療や高度な手術の方に目が行きがちになる中、「人を診る」という医療の原点を見つめ直してほしいと考えたのがきっかけでした。生徒にとっては、患者さんの家にホームステイしたり、訪問医療に立ち会ったりすることで、地域と病院が一体となった地域医療の実態、これからの課題などを考える貴重な体験の場となっています。加えて、この研修に参加した生徒がクラスに戻ってその体験を仲間に話してくれることで、クラス全体に地域医療に対する意識、関心が広がっていくのも大きなメリットだと思っています。
─「病理診断セミナー」なども、医サイならではの取り組みですね。
木村 病理医は、患者さんの組織などを観察し、適切な治療のための診断を下す、極めて重要な専門医なのですが、生徒にはあまり認知度が高くない。そこで、NPO法人病理診断の総合力を向上させる会及び、順天堂大学医学部付属練馬病院と連携し、診断の重要性を生徒に気づいてもらうためのセミナーを実施しています。前回は大腸がんの検体を複数持ってきていただき、まず午前中に「大腸がん診断規約」をもとに病理を学び、専門用語の使い方や診断の付け方をマスターしたうえで、患者さんの組織から作製した標本を検鏡し、診断結果を病理医の先生方の前で発表するカンファレンスを行いました。診断に当たっては、誰もが診断結果に納得できる科学的根拠を示せることが重要ですし、手術の執刀医や、臨床医と連携することも大切です。今年度は、「乳がん」の検体採取と病理診断を体験し、患者さんの臨床データをもとにカンファレンスを進めていくセミナーの実施を予定しています。
病理医という職業は、ある程度勤務時間をコントロールしやすく、家庭との両立が図りやすいため、女子生徒にとっては当事者意識を持って自分の医師像をリアルにとらえる機会ともなります。セミナーでは、実際に病理医として働く女医の方に講師をお願いし、病理医としての生活を率直に語っていただいています。
地域医療にしても、病理診断セミナーにしても、体験したことで満足するのでなく、自分がそこから何を学び取り、今後の学習に活かすことを狙いとしています。そして、医サイの生徒はそれができているからこそ、医師になる、そのために学ぶという高いモチベーションを持ち続けられているのだと思います。
そして、医サイにはそうした彼らの思いを後押しする専門性の高い熱意あふれる教員が揃っており、必要とあれば外部から一流の医療人や研究者を積極的に招聘します。もちろん、設備や機材などの研究環境も最高のものを用意していると自負しています。
大阪医科大学の鈴木富雄先生や公立神崎総合病院、神河町の方々の協力で、地域医療研修合宿に参加する生徒たち
考えること、研究することの 楽しさを知る中学の医サイ
─中学の医進・サイエンスコースも開設2年目を迎えましたね。
木村 中学の医サイは、必ずしも理系科目を得意な生徒が集まるコースではありません。本物の理科や数学に触れることで理系の学問を好きになり、考えること、自ら研究することの楽しさを知ってもらうことが目標です。
理系の学問の興味深さ、考えることの面白さを理解してもらうには、やはり学問の本質に触れることが重要です。そのため、中学でも1年生から「理数研究」という科目を設け、高校と同様の研究活動に取り組んでいます。もちろん、高校生ほどの知識はないため、世界初というような高いハードルは設定していません。ただ、中高一貫校のメリットを活かし、中学生が高校生の研究に入り込み、アドバイスを受けたり、活発に意見交換をしたりしています。中学生の斬新な発想が、高校生を驚かせることもあります。
病理診断講座は、日本病理学会の医師の先生方や順天堂大学医学部付属練馬病院の協力の下で行われ、優秀生徒は実際の手術や病理診断に立ち会った
─考えることの面白さ、研究の楽しさを知るという中学の医サイの学びは、まさに自ら学ぶという大学の基本に通じるものがありますね。
木村 中等教育(中学・高校)と高等教育(大学・大学院)での学びは本来つながっているものであるべきなのに、現在はそうなっていない一面もあると思っています。もちろん、中等教育の段階で必要な知識・技能・学習習慣などをしっかり身に付けることは言うまでもありませんが、自ら課題を設定・定義し、自ら学び、研究していくことのおもしろさを知ることは、大学での学び、引いてはその先にある医師や研究者として学び続けることへの大きなモチベーションになると思っています。
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