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Doctors' File 〜医師語一会〜

2018.05.18

【町 淳二 先生】国際標準の医学教育を日本中に広めたい

東海大学では、いわゆる「2023年問題」への対応を強化するため、2016年度からハワイ大学医学部と提携し、アメリカ式の医学教育「ハワイ医学教育プログラム」(HMEP=Hawaii Medical Education Program)を導入している。このプログラムを統括する町淳二ハワイ大学医学部教授に、改めて日米の医学教育の違いをお聞きすると同時に、3年目に入った同プログラムの手応えや、今後の展望などを伺った。


診療参加型の臨床実習の具体的な形を示したい

─日本で、アメリカ式の医学教育を行う意義をどのように考えていますか。

東海大学国際医学医療オフィス日本担当部長

 2023年以降は、米国のECFMG (Educational Commission For Foreign Medical Graduates)の国際認証を受けていない外国の医学部の卒業生は、どんなに優秀であっても、アメリカの医師国家試験USMLE(United States Medical Licensing Examination)の受験資格を得ることはできません。そのため、日本の全医学部は現在、国際認証を受けるためにカリキュラムの大改革を進めています。そして、ECFMGに認定された評価機関である日本医学教育評価機構JACME(Japan Accreditation Council for Medical Education)の認証を受けるべく準備を進めています。具体的には、ECFMGの要求する国際基準(日本ではWFME(World Federation for Medical Education)の基準に準拠)をクリアするようなカリキュラム改革を進めているわけです。

 その一番のネックになっているのが、医学生の臨床実習Clerkshipです。ECFMGが求めているのは、実際の患者への診療に参加する診療参加型の2年間の臨床実習です。ところが、従来の日本の医学部の多くは、臨床実習の期間は1年~1年半であり、しかも指導医の診療の場にいるだけの見学型が中心でした。そのため、どの医学部も実習期間を2年間に伸ばし、診療参加型の実習へと転換しようとしているのです。

─JACMEの認証さえ得られれば、国際認証を得たことになるのですよね。

 ペーパー上は認証を受けられると思います。2年間という実習期間はクリアできるでしょうが、その中身をすぐに診療参加型に転換することはかなり難しいでしょう。今までそういう経験がないのですから。実際、ハワイ大学医学部には、以前から日本をはじめアジア各国から大勢の医学教育担当者が臨床実習の見学に訪れています。ハワイ大学医学部は典型的なアメリカ式医学教育で、診療参加型の臨床実習の経験が豊富だからです。

 アメリカの認証には必ずリニューアルすなわち更新制度があり、そのたびに監査内容や方法が厳しくなるということです。2023年度のECFMG認証の期間はたぶん3年間位でしょう。アメリカではLCME (Liaison Committee on Medical Education)という教育の第三者機関が医学部130校に対して訪問審査を行い、本当に学生が診療に参加しているかを直接確認しています。日本ではJACMEが担当することになりますが、3年後の更新審査では、実際に医学生が患者とやり取りしながら診療に参加しているかどうかが、厳しくチェックされることになるはずです。場合によっては2回目の認証にパスしないところが出てくるかもしれません。

 そこで、日本にアメリカ式の臨床実習を広めたいと、東海大学とハワイ大学が連携する形でHMEPを立ち上げることになったわけです。プログラムに参加できる人数は限られていますが、参加する学生や指導医の数が増え、彼らが核となってアメリカ式の臨床実習が日本に根付いていくことに期待しています。

アダルトエデュケーションが基本のアメリカ式医学教育

─アメリカ式医学教育と日本の医学教育の端的な違いはどこにありますか。

ハワイ大学医学部教授

 医学生を医師として扱っているかどうかです。アメリカでは医学生はStudent Doctor、すなわち医者の卵として扱われますが、日本では、そこまでの意識はありません。ただ、それは日米の医学部の教育体系の違いが大きく影響しているため、仕方がない部分もあります。医学教育は、日本は高校卒業後からの6年間ですが、アメリカは大学卒業後の4年間のため、アメリカでは医学部に入学した瞬間から医師としてのモチベーションも高く、そこで職業教育が始まるわけです。

 つまり、アメリカの医学教育は、大人に対する教育、アダルトエデュケーションが基本です。アダルトエデュケーションは、本人に自覚があり、十分なモチベーションを持った人たちが対象です。ですから、学生を子どもとして扱う教育とは、中身も方法もまったく違っています。そのあたりが、診療参加型の臨床実習でも端的にあらわれてくるのでしょう。

─HMEPは1年次からスタートしますが、やはりアダルトエデュケーションの形をとっているのですか。

ハワイ大学医学部教授 町 淳二 先生

 講師陣は、アメリカ式の医学教育を熟知した専門家たちですから、アダルトエデュケーションが基本になると思います。つまり、手取り足取りではないということです。HMEPでは、1年次は1年間に10回程度、2~3年次は30回くらい講義がありますが、すべて課外活動扱いで出来るだけInteractiveな授業で、通常の授業がない土曜日などに行われます。HMEPは現在は東海大学以外の9大学とも連携しているため、東京在住でない学生はオンライン配信のビデオ教材で勉強することになります。いずれの場合も登録は自由で、講義も自由参加が基本です。つまり、十分なモチベーションのあるアダルトを前提とした教育になっているわけです。Online e-learning教材もHMEP独自で開発し提供し、学生は自分のペースで自習します。

 そのため、初年度はHMEP授業参加者は50~60人いましたが、その学生が2年次になると受講学生は半数から3分の1に減っていました。講義によっては残念ながら10人以下ということもありました。結局、HMEPは、1~3年次までのプログラムを通して、本当にやる気のある学生に絞られてくるようになっているわけです。HMEPの最大の目標は、4~6年次に日本で実施されるアメリカ式の臨床実習に、本当に意欲のある医学生に参加してもらうことです。1期生は2019年後期から2020年にかけて行われる臨床実習に参加することになりますが、東海大学から10名程度、他大学から数名程度を選抜していただき、各校の医学生をミックスし35~40名程度でスタートできるのではないかと想定しています。

臨床実習ではしっかりと学生と向き合いたい

─プログラム開始から3年目に入りますが、どのような手応えを感じていますか。

町 淳二 先生

 私自身はハワイ大学に籍があり、コーディネータとして講師の先生方の調整を行ったり、全体のプログラムのマネジメントに携わったりしているため、直接学生たちの話を聞く機会はまだ少ないです。ですから、講師の先生方からのフィードバックがあるだけですが、熱心な学生が多々いることは知っています。また、HMEPに参加する大学も徐々に増加しているので、価値のあるプログラムという認知が広まっていると感じています。

 もっとも、私自身も、毎月1週間は日本に滞在して様々な業務をこなしているため、臨床実習が始まれば、毎月学生たちと顔を合わせることになりますし、外科では直接指導することもあると思います。そのときはしっかりと学生と向き合ってコミュニケーションをとりながら、学生からのFeedbackによって、よりよいプログラムにしていきたいと思っています。何といってもHMEPの主役は学生で、Student Firstのプログラムにします。

世界に羽ばたく医師になってほしい

─HMEPを通して、どのようなことを学生に伝えたいと思っていますか。

町 淳二 先生

 学生も含め若い人たちには日本国内だけでなく、世界に広く目を向けてほしいです。私の好きな言葉に「Learn from yesterday, live for today, plan and dream for  future. Important thing is always to keep moving forward.」というのがあります。「過去に学び、現在を生き、将来に向けて夢やプランを持ちなさい。大切なのは前進し続けること」という意味ですが、医師としてのプロフェッションのなかでは、向上心や継続的な学びは特に重要で、一点に留まるのは医療者としては失格だと思います。

 チャンスがあれば、海外に出てほしいです。いったん日本を出ると視野も広がり、モチベーションも高くなりますし、日本のいいところと悪いところ、日本の医療や医学教育のいい面と悪い面も見えてきます。そうなれば、その後の本人の学びも飛躍的に向上するはずです。

「教育は一切リターンを求めない」という文化も浸透させたい

─この取り組みについての、今後のビジョンをお聞かせください。

ハワイ大学医学部 町 淳二 教授

 まずはHMEPを継続的なプログラムとして発展させていきたいです。アメリカ式の臨床実習を行う病院は、最初は1カ所からスタートしますが、プログラムをより多くの大学にも広めつつ、指導医の数も増やしながら、病院の数も2つに増やして、50~60人くらいの臨床実習生を受け入れるようにしていきたいと考えています。最終的に日本の全医学部が参加するようになれば、100~200人規模にはなるだろうと思いますが、それは私の後の世代に委ねることになるでしょう。そういう時代がくることを真に願っており、それが日本全体の医学教育の国際標準化に繋がると信じます。

 もう1つは、臨床実習を行う病院を、教育病院にするのと同時に、国際病院にもしたいということです。国際標準に基づいて国際感覚を持った医師の育成を行う病院で、かつ外国人の診療もできる病院にすることで、国境なき医師団とか、途上国での医療ボランティアなど、国際貢献に寄与できる医師が輩出するような病院にしていきたいと考えています。

─先生も含めて、このプログラムの教育に関わる人たちはボランティアとお聞きしました。

 大切なのは、教育の継続性です。その意味ではあまりお金がかからないことが理想的です。必要最小限の経費は、東海大学や連携大学が負担してくれていますが、学生からは一切お金を徴収しませんし、私自身も、HMEPを推進する一般社団法人JrSrに参加してくれている教育担当の仲間5~6人もボランティアです。ハワイ大学からの教材提供も無償です。

 なぜ、そういうことが可能なのか。それは、アメリカには「教育は一切リターンを求めない」という文化が徹底しているからでしょう。

 私自身、自分の恩師には何も恩返しをしていませんが、その恩師からは、次の世代にボランティア精神で自己投資することが恩返しになるのだと諭され、感銘を受けた経験があります。教育は「Give and Take」ではなく「Give and Give」であるべきです。こうした見返りを求めない、囲い込みはしない自由な教育システムが根付き、自由に羽ばたかせてくれるところには、結局は人財が集まってきますし、長い目でみればその場所を豊かにしてくれるのです。アメリカ式の医学教育を推進するHMEPを通して、こうした教育のカルチャーも日本に浸透させていければいいですね。

プロフィール

東海大学国際医学医療オフィス日本担当部長 町 淳二 先生

町 淳二 さん(まち・じゅんじ)

1952年3月 神奈川県横浜市 生

【所属】
ハワイ大学医学部外科・国際医療医学オフィス 

【学歴及び職歴】
1977年  3月 順天堂大学医学部卒業(1972年米国留学)
1977年  5月 沖縄県立中部病院卒後研修(インターン、外科レジデント)
1981年  2月 イリノイ大学病理 外科 リサーチフェロー
      外科 修士(M.S. 1982)、病理 博士(Ph.D. 1984)
1985年  1月 久留米大学第一外科 助手(医学博士、1989)
1987年 10月 ペンシルバニア医科大学外科 研究講師
1989年  7月 ペンシルバニア医科大学外科 レジデント
1993年  7月 ピッツバーグマーシー病院外科 レジデント
1995年  7月 ハワイ大学外科 準教授
1998年  6月 米国外科専門認定医(2006年1月更新試験合格)
2001年  7月 ハワイ大学外科 教授
2008年 12月 野口医学研究所 理事長、野口研修プログラムNKP創立
2012年  4月 東京ベイ浦安市川医療センター NKP研修委員長
2014年  8月 ハワイ大学医学部Office of Global Health/Medicine Assistant Director
2014年 10月 一般社団法人JrSr(Junior Senior Corporation)創立者
2016年  4月 HMEP(ハワイ医学教育プログラム)開始・責任者

【専門領域】
一般外科・消化器外科、 外科での超音波(術中・腹腔鏡超音波超音波ガイド、
超音波組織特性など)、日米の医学教育・卒後研修・専門医制度・医療制度

【主な所属学会】
American College of Surgeons
 (National Ultrasound Faculty, Director of Abdominal Ultrasound)
Society of American Gastrointestinal Endoscopic Surgeons
American Institute of Ultrasound in Medicine
American Medical Association
International Society of Surgery
International Society for Digestive Surgery

【業績:著書】
米国式Problem-Based Conference, 医学書院, 2003
Ultrasound For Surgeons (2nd Ed), Lippincott-Williams & Wilkins, 2004
日米比較に学ぶ「国民主役」医療への道, 日本医療企画, 2006
外科Decision Makingの進め方, 羊土社, 2008
美しい日本の医療, 金原出版, 2008
楽楽研修術, 三輪書店, 2009
Dr.リトルが教える医学英語スピーキングが上達する方法, 羊土社, 2013
Abdominal Ultrasound for Surgeons, Springer, 2014
など

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